室内狭いのになぜ? クーペ風のSUVが増えた背景
このようにクーペ風のSUVが増えた理由は、まずSUVの造形に広い自由度と多様性があるからだ。
過去を振り返ると、SUVはジープに代表される悪路向けのクルマから発展したので、デコボコを走破できる大径のホイールとタイヤを装着する。車高も高めだから、フロントマスクにも厚みがあって強い存在感を放つ。
いい換えれば、大径タイヤを装着してボディの下側にガード風のパーツを加えると、どのようなクルマでもSUVに見える。かつて北米で販売されたレガシィアウトバックには、セダンをベースにしたタイプも用意されていた。
また、1980年代に販売されたアメリカン・モーターズのイーグルは、大径タイヤを装着して最低地上高(路面とボディの最も低い部分との間隔)も180mmに達するが、ワゴンやセダンに加えてクーペやコンバーチブルまで選択できた。
こういった経緯を考えると、クーペ風のSUVは用意されて当然だ。ワイドに張り出したフェンダーと大径タイヤという力強い下まわりに、さまざまなボディを組み合わせられる。メーカーが車種数を増やす上でも都合が良い。
だからこそクーペSUVが増えた。普通のクーペ、セダン、ワゴンなどはすでに好調に売れた時代を経験しており、今は安定した市場になった。
欧州車では、かつて日本で流行した4ドアハードトップのような4ドアクーペが人気を得たこともあるが、もはやメルセデスベンツCLSクーペなども新鮮なカテゴリーではない。
そうなるとSUVが頼みの綱で、この多様性を生かして最近はクーペ風が増えた。ランドクルーザーのような悪路向けのSUV、エクストレイルやフォレスターなど実用指向の車種がSUV市場の基盤を築いたが、メーカーはさらに売れ行きを伸ばしたい。
そこでSUVの可能性を求めて開発がエスカレートされ、クーペSUVの段階に入った。
クーペSUV増殖の一方でジープなど硬派なモデルも人気
SUVが新しい方向に発展していく一方で、原点回帰を求めるユーザーも増えてきた。
2020年1~6月における小型/普通車の登録台数ランキングで1位になったライズ、ヴォクシーと同等に売れたRAV4は、前輪駆動ベースのSUVながら、ランドクルーザーのような後輪駆動をベースにした悪路向けSUVの野性味を感じさせる。
また、2019年の輸入車販売状況を見ると、登録台数ランキングでジープ ラングラーが16位に入った。ラングラーはミリタリージープの流れを汲む悪路向けの硬派なSUVで、日本でも1980年代から正規輸入されてきた。
それが今になって、メルセデスベンツのBクラスやCLAと同様に売れ始めた。GLCクーペのような都会派SUVが増えた結果、悪路向けへの原点回帰も加速してラングラーの高人気に結び付いた。
SUVブームは今後どのような方向性に向かう?
今後もSUV市場の好況は続く。メーカーとしては、SUVはまだ本格的なブームを経験していない唯一の伸び盛りなカテゴリーだから、商品開発も緩めない。
しかもSUVは多種多様の車種を開発できるから、アイデア次第では、今後も新たな人気車を生み出せる。今後登場する日産アリアもそのひとつだ。
そして、SUVが先鋭的な方向に進化を続けると、前述の原点回帰も強まり、RAV4やジープ ラングラーが注目される。SUVでは市場の活性化が多角的に続くのだ。
また、クーペ風のSUVも、全高は大半が1550mm以上だから、スタイル優先ではあるが後席と荷室はセダンやワゴンよりも広い。格好良さと実用性を併せ持つ。
この商品特徴は、子育てを終えて、ミニバンが不要になったユーザーに最適だ。一度ミニバンに慣れると、天井が下がる全高が1450mm前後のセダンやワゴンには戻れない。クーペ風を含めてSUVがちょうど良い。
SUVの使い勝手にも注目したい。クーペ風を含めて、セダンやワゴンに比べると着座位置が適度に高く、乗降時には腰の移動量が少ない。ドアの開口部も広いから、乗り降りがしやすい。
今はミニバンが不要になったユーザーを含めて、中高年齢層が増えた。SUVはこの世代に優しく、ユーザー層をさらに広げている。
今ではSUV市場にロールスロイスまで参入しており、今後はフェラーリもプロサングエを用意する。世界中のブランドがSUVに群がってきた。
今のうちにクーペ風に続くSUVの新たなコンセプトを見つけられれば、ユーザーの興味を維持できて、付加価値の高いクルマの売れ行きも保てる。今後もSUVのカテゴリーから、さまざまな楽しいクルマが登場するに違いない。
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