クルマを楽しめることを目指したフェアレディZ
一方、フェアレディZは、そもそも前型のオープンスポーツカーであるフェアレディから発展し初代が生まれるとき、誰もが手軽に手にすることができるスポーツカーとして登場した。
また、モータースポーツ用に容易にチューニングなどもできる、遊べるスポーツカーであることも求めた。
実際、初代Zはレースやラリーに参戦し、チューニングカーも手掛けられた。つまり、先進技術を象徴するのが目的ではなく、人がクルマを楽しめることを目指したのである。
スポーツカーの歴史を振り返れば、多くが既存の乗用車の部品を活用しながら、軽量化や低重心、そして独自の外観を持つ車体を組み合わせることで生産され、クルマ好きを楽しませてきた。
ポルシェでさえ、最初のスポーツカーである356は、フォルクスワーゲン・タイプ1(通称ビートル)の空冷水平対向4気筒エンジンを利用し、ミッドシップの鋼管フレームに搭載して生み出されている。
英国の1950~60年代のライトウェイトスポーツカーも、市販量産乗用車のエンジンなど部品を流用して、オープンスポーツカーとして売ってきた。
ロータス・セブンは、市販のエンジンと交換スペースフレーム、そしてレーシングカー製作で得た技術を応用したサスペンションなどを利用して製造された
既存の部品を活用してスポーツカーをつくることは、腕に覚えのある人なら自分で製作することもでき、バックヤード・ビルダー(裏庭で物づくりする)という言葉さえあった。
マツダのロードスターも、同様の着想で誕生したライトウェイトスポーツカーだ。現在からみると、フェアレディZはより上級なスポーツカーに思えるかもしれない。
だが、原点を探れば、手ごろな価格で少し頑張れば誰もが手にできるスポーツカーという価値が本質なのである。
したがって、歴代Zの衰勢を振り返ってみると、モデルチェンジによって、より高性能、より上級志向となっていくほどに販売台数は減り、4代目(Z32)から5代目(Z33)の間に約2年の空白期間を生じたほどだ。
そして5代目で原点回帰をした。続く現行の6代目で上級志向の造形や質感を求め、先ごろ公開された7代目のプロトタイプでは再び原点回帰をする様子がうかがえる。
7代目プロトタイプからみる日産の未来
プロトタイプの発表に際し、田村宏志チーフ・プロダクト・スペシャリスト(CPS)は、
「~スポーツカーを操る楽しさを提供する“ダイナミックパフォーマー”です。お客様がクルマとの一体感を感じながら、その高い性能を楽しむことができる。これはどの世代のZにも共通するものであり、我々の情熱と挑戦の証なのです」と語った。
そして、プロトタイプに搭載されたのは、V型6気筒ツインターボエンジンと6速マニュアルトランスミッションである。
田村CPSは、記者会見で「モビルスーツのようなパワーをいかに電子制御で、というか人間の英知を結集したGT-Rに対し、Zはダンスパートナーとシンクロナイズするイメージでしょうか。~新型Zは、タイムアタックではない、気持ちよさを出していきたい」と述べてもいる。
スポーツカーの位置づけについては先に紹介したが、そのように、人が中心であるのがスポーツカーだ。それに対し、技術が人を支えるのがグランドツーリングカーである。
モータースポーツの場面でも同様で、F1をはじめとするフォーミュラカーレースは、レーサーのための競技であり、人の技量を勝負の分かれ目とする。
これに対し、ル・マン24時間レースのようなプロトタイプカーやGTカー向けの耐久レースは、自動車メーカーが主役であり、技術を競うのが本来の目的だ。こうして、クルマの性能や耐久・信頼性が向上してきた歴史がある。
日産が、フェアレディZをまずモデルチェンジし、次世代へつないでいくのは、人を中心とした運転の喜びを継承していくとの宣言ともいえる。
日産リーフや、今後発売されるアリアのように、クルマ社会は電動化の道を歩むほかなく、それが未来の交通社会を築いていく。そこに、自動運転が組み込まれ、快適な移動が万人の暮らしを支える。
それに対し、クルマを操る楽しさを象徴するスポーツカーは、ガソリンエンジンをマニュアルシフトで駆使する喜びがあっていい。EVとスポーツカー、そこに未来のクルマの両輪が示されているといえる。
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