3ドアのフィアット500に、“後ろのドア”が!? 世界初公開の「3+1」を筆頭に、マツダ MX-30など、独創的なドアを持つ個性派車には、ならではの「工夫」あり!
イタリアの国民車フィアット500は、2020年5月に、EVの最新型を発表したことは記憶に新しい。そのスタイルは、今なおファンの多いクラシック500(2代目)の面影を残し、継続販売中の現行型500をモダナイズさせながらも、伝統的な愛らしいスタイルが特徴だ。
すでに、ハードトップの「ベルリーナ」とコンバーチブルの「カブリオ」が発表されていたが、2020年10月22日に、新たにボディタイプとなる「3+1」を世界初披露した。
文/大音安弘、写真/編集部、FIAT、MAZDA、DAIHATSU、TOYOTA、HONDA、Renault、Tesla
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■運転席側を観音開きにしたフィアット500「3+1」が登場!
この「3+1」は、いわゆる片側観音開きドアを採用したもの。この手のスタイルは、初代MINIクラブマン(BMW製)やサターン・クーペなどに採用された例があるが、これらは運転席側が観音開きとなり、助手席側はフロントドアのみ。
つまり、後席の乗降性向上に加え、ドライバーによる後席活用を高めることを目的としたものだった。
しかし、「3+1」は助手席側が2ドア仕様となる。一見、矛盾しているようにも思えるが、これは500の日常を反映したもの。都市部で通勤に愛車を活用するパパママたちは、出勤前の子供たちを学校に送り届けることが日課だ。
子供が複数名となれば、後席の活用も必須。そこで、安全な乗降のために歩道側となる助手席が2ドア仕様となるのだ。2ドアの後席側はビルトインピラー構造が採用されており、後席だけの開閉は不可となる。ドライバーの使い勝手よりも、家族の安全を優先させた思想は、500を家族の一員として捉えているように思え、微笑ましい。
ただ、ユニークなドア機構を持つクルマなら、日本車だって負けてはいない。そんな個性派ドアを持つクルマたちとドアの特徴も紹介していこう。
■フリースタイルドア/マツダMX-30
マツダの新型SUV「MX-30」には、「フリースタイルドア」と呼ぶ観音開きドアが採用されている。最後のロータリー車となった4ドアスポーツクーペ「RX-8」での開発技術を活用し、生まれたものだ。
2ドアスタイルながら、後席側にサブドアを設けることで、アクセス性を高めたもの。ドア全開時に開口部が大きく取れるが、後席側のサブドアのみの開閉は不可。
これはBピラーレス構造と高いボディ剛性を両立するために、後席側のサブドア内部にBピラーに相当する強化部材とボディとの強固な接続部を備えるため。この仕組みはRX-8も同様だ。
■ミラクルオープンドア/ダイハツ タント
子育てママに絶大な人気を誇る、ダイハツの軽スーパーハイトワゴン「タント」の武器が、助手席側ピラーレス構造による大開口ドア「ミラクルオープンドア」の存在だ。
助手席の最大開口幅は、なんと1490mmにもなる。大きな荷物も楽々と収納できるのは、もちろんだが、足元のステップや補助グリップを追加することで、高齢者でも安心して乗降できるように設計されており、福祉車両としても活用できるメリットも持つ。
ピラーレス構造だが、後席スライドドアだけの開閉も可能。スポーツカーやSUVのようなスポーティな走りは求められないので、Bピラーに相当する補強を前後ドア内部構造に組み込むことで安全性と利便性を両立させている。ホンダの軽商用車「N-VAN」も同様のドア機構を備えている。
■2ドア+大型スライドドア/トヨタ ポルテ&スペイド
コンパクトカーとワゴン車の良いとこ取りを狙ったのが、トヨタの「ポルテ/スペイド」だ。ずんぐりむっくりのスタイルも個性的だが、ドアのデザインはもっとユニーク。
運転席側は前後独立のヒンジドアが備わるが、助手席側は大型のスライドドアがひとつ。後席は固定式だが、助手席にロングスライド機構を設けることで、ワゴン的な使い方も可能。なんとキャビン内部に26インチの自転車を積むことが出来るほどだ。
助手席側がスライドドアなので、子供が乗降時にドアを他車にぶつける心配がないのもメリット。またスライドドアは電動式なので、抱えた子供ままでも開閉ができるのも便利だ。
■ワクワクゲート/ホンダ ステップワゴン
ミニバンのテールゲートは、大きな荷物を積みこむ時こそ役に立つが、狭い場所では弱点にもなる。また小柄な女性や子供が開閉に苦労することも……。
その難題を解決してしまったのが、「ワクワクゲート」だ。テールゲートの約半分が横に開くサブドアで、後方のスペースの限られる駐車場でもラゲッジにアクセス可能。部分的な開口といえば、ガラスハッチ付きのテールゲートもあるが、開口位置が高く、重いものの出し入れは大変だし、そもそも床面近くには手が届きにくい。
その点、ワクワクゲートは開口部の高さは、テールゲートと変わらず、便利。3列目シートの折り畳み機構が簡単なこともあり、ワクワクゲートからの3列目シートへの乗降も楽々できる。
ただ、ワクワクゲートのぶん、リアゲートがやや重くなるのはご愛敬。使ってみると、想像以上に使い勝手が良く、まさに画期的な発明といえるだろう。
■ダブルバックドア/ルノー カングー
フランス生まれの元祖お洒落ミニバンとして、カルト的人気の持つルノー カングー。ラゲッジドアは、ダブルバックドアと呼ぶ観音開き式を採用する。
これも他のミニバンのテールゲートと異なり、狭い場所で開閉できるのがメリット。さらにドアは、通常時は90度開閉だが、ヒンジのロックを外すと180度まで拡大。大きな荷物の積み込み時にドアが邪魔にならない仕組みだ。
テールゲートに拘るのは、元々、カングーが働くクルマとして生み出されているため。欧州ではパネルバンとしても活躍しており、開発時に、カングーを郵便車として採用するフランスの郵政公社が協力するほどだ。かわいい見た目だが、本格ワゴンなのだ。
■ファルコンウィングドア/テスラ モデルX
個性派ドアといえば、スーパーカーに多く採用されるガルウィングドアやシザードアは象徴的な存在だが、個性という点で見れば、テスラ モデルXには敵わない。
モデルXは、テスラの大型SUVだが、リアドアのみガルウィング式ドアの「ファルコンウィングドア」を採用する。その狙いは、狭い場所でも後席に楽々と乗降するためだが、電動開閉式ドアという点から見ても、ショーファードリヴンのニーズを狙う面もあるのだろう。
ボタンひとつで開閉可能で、未来的かつ便利なものだが、開閉途中で乗り込もうとすると、上昇中のドアに頭をぶつける危険があるのでご注意を……。開閉スピードは遅くないのだが、開ききるまで待つと、ちょっと長いのだ。
最新車を中心に個性派ドアを持つクルマを紹介してきたが、クルマは100年に1度と言われる大変革の真っただ中。自動化やニーズの変化により、ドアという概念も将来的には変化していくかもしれない……。