「悪路を走る性能に特化」、「重心が高く走りは苦手」は過去のもの? 最新SUVには走りもスポーティで本格派も出現!
かつてSUVといえば悪路に特化したクルマで、舗装路の走りは得意分野ではない、というイメージも強かった。しかし、そもそもSUVは「多目的スポーツ車」の略。近年ではさまざまな特長を持つ、乗用車的な快適性を持つ人気車が増加。走りのレベルも大幅に向上している。
なかでもスポーティと呼べる走りが身上の最新SUVとは? 自動車ジャーナリストでレーシングドライバーの松田秀士氏が解説する。
文/松田秀士、写真/TOYOTA、SUBARU、HONDA、NISSAN、VOLVO
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■SUVの「生涯未舗装路走行距離」は全体の1割未満?
実はSUV、もともとはそんなに走りの良いクルマではなかったのです。というのもSUVの中にはクロカンSUVなるものも存在しているから。
クロカンSUVはクロカン四駆などとも呼ばれ、悪路走行を前提にしたモデル。発展途上国などで道なき道を走る映像を見たことがあるでしょう。車高が高く、見た目にはSUVのようです。米国ではトラックから派生したピックアップなどもSUVと呼んでいます。
岩場やぬかるみ等を走るため、これらは頑丈なラダーフレームや左右が繋がったリジット式のサスペンションを持っています。地上高ももちろん高い。だからSUVに見えますよね。しかし、路面の良いオンロードでは、それらの走行性能はあまり良くありません。
構造的に重いし、重心が高く、バネ下も重くまったりとした走りです。これはこれで味わい深いものですが、ほぼオンロードばかり走るSUVにはそれらの機能は余計なもの。
メルセデスの調査によれば、いわゆる一般的なSUVの生涯走行距離の中でオフロード走行距離は10%にも満たない、と言われています。なのに新型SUVのキャッチにはオフロード性能を前面に謳ったものが多いですね。
つまり、使わなくても本格的なオフロード性能を持っていることがある種のステイタスなのです。これはもうファッションですよね。要らないもの、高級なもので身を飾ることに通じます。それらを身に着けることで幸せな気分に浸る。
しかし、このようにオフロード性能を謳いつつも、実際にはそのようなシチュエーションを走行することはないのだから、本題のオンロード性能をもしっかり身に着けているモデルがあるのです。その代表的な走りのいいモデルをここに紹介しましょう。
■パワフルさは屈指! RAV4 PHV
まずトヨタRAV4 PHV。「好きにまみれろ!」というキャッチはオフロード性能もしっかり磨きましたよというメッセージ。
PHVは人気殺到で本年度(2020年)分がすでに完売。RAV4にはガソリンモデルとハイブリッドモデルもラインナップされていますが、そのどれもがオンロードでの走りが良い。なんといってもカムリと共通のプラットフォームを使用しているのです。
プラットフォームが共通だと、エンジンの搭載位置、駆動方式、サスペンションの取り付け位置も共通。特にサスペンションに関してはSUV化することで車高が40mm前後上がってしまうわけで、これに対応した初期設計とサスペンション取付変更が必要になります。
昔はそんなことお構いなしで車高を上げるモデルも多かったのですが、最近はどのモデルも小規模なモディファイを行ってSUV化しています。
話を戻して、PHV化されたRAV4は18.1kWhというPHVとしては大容量のリチウムイオンバッテリーを床下に搭載。これだけで200㎏以上の重量があり、よって低重心になるわけ。
レーシングカーの開発コンセプトに、重いものは低く中央に搭載する、というセオリーがありますが、まさにこれに沿った設計。だからそれだけでもコーナリングが良いわけです。
さらに「Eブースター」と呼ばれる前後輪のモーターパワーによって、発進加速から追い越し加速までバツグンの瞬発力。来年の受付が始まったらボクも欲しいモデルの1台です。
■ターボ車も復活! フォレスターは回頭性も抜群
次にフォレスターは、スバル最新プラットフォーム(SGP)を採用しています。このプラットフォームは、新型レヴォーグにも採用されていて、基本性能が非常に高いことと衝突安全に優れています。
スバルは仕向け地(海外)によってボディの基本骨格を変更しないメーカーなので、規格の厳しい欧米と同じ基準のボディを国内にも供給しています。安心ですね。
そのフォレスターの魅力はなんといってもオンロードでのアジリティ(回頭性)。ステアリングを切り始めた瞬間からノーズが反応し、コーナリング中も大きなロール感は少なく、思い通りに曲がるのです。
こう書くと他のクルマは曲がらないのか? と思われるかもしれませんが、フォレスターはそのコーナリングのフィーリングがとてもデジタル。ステアリングを切り足した時の反応が違うのです。常にダイレクトなフィーリング。
AWDの性能が高く車高もあるのでオフロードもしっかりこなします。新しくレヴォーグに搭載された新開発1.8Lターボエンジンもラインナップに加わりお勧めのSUVです。
■走り味に魅力! ヴェゼルハイブリッドModulo X
ヴェゼル ハイブリッド Modulo Xは、ポルシェ カイエンをベンチマークに開発したというだけあって走りに味があります。
サスペンションの初期のストローク感がとてもスムーズで、これによって乗り心地も快適なもの。Moduloはホンダのチューニング系コンプリートカーというイメージがありますが、実際にドライブしてみると家族を乗せてもOK! という感じで、快適性とスポーティなハンドリングを併せ持っているモデルです。
■ハンドリングと乗り心地を両立! エクストレイルAUTECH
エクストレイルAUTECHは雑味がなく素晴らしい仕上がりです。
NISMOは知っているけどAUTECHを知らない人も多いかもしれませんね。AUTECHジャパンはNISMOモデルを含めた日産車の開発も行っています。マーチボレロというオリジナルカーに試乗した時には、あのマーチがこのようになるのか! と感動したものです。
AUTECHが手掛けると、ハンドリングの正確性が増し、しかも乗り心地も高次元でバランス。ザックス製ショックアブソーバーで調教されたエクストレイルは、まさにそのような質の高いSUVにまとめ上げられています。
■輸入SUVで光るボルボ XC40 B5の瞬発力
最後に1台ぐらい輸入車を、ということで筆者のお勧めはボルボXC40 B5。
これまでボルボには「T5」などといった数字の前にTが付加されていましたが、すべてのモデルが電動化されることよって「B」が付加されるようになりました。
このB5は48Vマイルドハイブリッド+2.0Lターボエンジンで、マイルドハイブリッドは主に発進時などのアシストを行う。国産のハイブリッドほど幅広い速度域をフォローしないが、この発進時やちょっとしたアクセルの踏み増し時にもしっかり実感する。
そしてB5は、パワーそのものが大きく加速感はコンパクトSUVの中でもトップレベル。サスペンションは比較的硬めだが軽快感が高い。
車重は1700㎏以上あるので決して軽量ではないけれども、SUVらしくゆったり走るときにはこの重量がプラスに働き、コーナリングでは重さを忘れたかのような瞬発力を見せる。内外のデザインも個性的で持つことの喜びを与えてくれるモデルだ。