日本では終売なのに! えっ!? WRX STIの2021年モデルが北米で発売!

■STI平岡社長は「スバルフィロソフィーの定着を目指す」と強調

 まず、「STIブランドの現状」について、業界の現状を筆者なりに考察した。

 メーカー系ハイパフォーマンスブランドは2000年代以降、大きく変化してきた。海外ではダイムラーによるAMG内製化、BMW・Mの多モデル化、さらに国内ではレクサスFシリーズの開始などがプレミアムブランドでの正規チューニングが当たり前となり、通常ラインアップに加わった。

 一方、STIと三菱ラリーアートは世界ラリー選手権(WRC)を起源として、ほかのメーカー系ハイパフォーマンスブランドとは別の道を歩んできた。その上で、STIはいま、独ニュル24時間レースを軸足としたブランドイメージを継承しており、そうした中でSTIとスバルの関係性がどう維持されているのか?

STI はラリー技術を起源とした「タフさ」を売りに、日本国内では一定の知名度を得てきた。その中でも『WRX STI』はそのイメージを体現し、所謂『スバリスト』から憧れの的となっている
STI はラリー技術を起源とした「タフさ」を売りに、日本国内では一定の知名度を得てきた。その中でも『WRX STI』はそのイメージを体現し、所謂『スバリスト』から憧れの的となっている

 これについて平岡氏は、STIはスバルの100%小会社であり、事業計画はスバルとの協議を上に進めるのが基本であること。レース参戦の知見をSTIが、またアイサイトに代表される先進安全技術での知見をスバルが、というように互いの得意分野を尊重すること。なかでも、STI SportsについてはSTIのサスペンションセッティングに関するデータがフル活用されていることを指摘した。

 次に、STIブランドとしての認知度についても聞いた。

 この点については、2019年に国内で数百人を対象とした調査を行った結果、「STIに興味があるが、自身では操れないシロモノのようなイメージが残る」として、試乗、そして購入へと結びつかないケースがあることがわかったという。

 そうした中で、「STIフィロソフィー」として掲げている、STIが目指す「速いが、人にやさしく、例えSシリーズでも長距離乗って疲れないクルマ」という認識をさらに高めていきたいと主張した。

 こうしたSTIブランドの訴求は着実に進めていくことと同時に、スバル本体の販売事業計画の中で、STI量産モデルの在り方を、仕向け地(販売地)別に考えていく必要があるとも指摘した。つまりそれは、日本市場とアメリカ市場で異なる事業戦略を取るという意味である。

■アメリカでのスバルとSTI

米国向けSTIシリーズの第3弾として投入された『S209』。オーバーフェンダーによるボディのワイド化で265/35R19タイヤを納め、それに見合うだけの高出力化や足まわり強化を行っている
米国向けSTIシリーズの第3弾として投入された『S209』。オーバーフェンダーによるボディのワイド化で265/35R19タイヤを納め、それに見合うだけの高出力化や足まわり強化を行っている

 では、アメリカ市場でのSTIを含めたスバルブランドの存在について、1980年代から2020年代まで、アメリカ各地での実体験を基に振り返ってみたい。

 1990年代まで、アメリカでのスバルブランドのイメージは、日本でもスバルの古典的な商品イメージである、降雪地域での生活四駆だ。具体的な地域は、西海岸のオレゴン州とワシントン州、中部ではコロラド州、中東部ではミシガン州、ウィスコンシン州、ミネソタ州、そして東部ではニューヨーク州、ニューハンプシャー州、メーン州である。さらに北米大陸としたはカナダ全土を含む。

 こうした米北部地域から南下した、カリフォルニア州、テキサス州、ジョージア州など

 サンベルトと呼ばれる自動車販売台数が多い主要マーケットへの販売促進活動が2000年代中盤から本格化した。それに伴い、商品企画を大きく見直した。

 これが、現時点まで続く、スバルの事業方針であるアメリカシフトであり、スバル成長の基盤となっていることを改めて言うまでもないだろう。

 この2000年代、アメリカシフトが本格化する少し前、アメリカでは日系チューニングカーブームが到来した。映画「ワイルドスピード(原題:ザ・ファスト・アンド・ザ・フューリアス)で描かれた世界である。そのブームの真っただ中に、スバル・インプレッサWRXが北米上陸。筆者は当時、ロサンゼルスでWRXを購入して日常利用していた。

 その後、WRX STIが上陸し、ハイパフォーマンス系スバルの商品イメージでの訴求が始まった。

日本国内向けの『WRX STI』は走りの本質をさらに磨き上げるため、現行型の販売を終了したようだ
日本国内向けの『WRX STI』は走りの本質をさらに磨き上げるため、現行型の販売を終了したようだ

 だが、日系チューニングカーブーム終焉後、ラリーやニュル24時間レースの認知度があまり高くないアメリカでは、STIに対するブランドイメージがなかなか定着しなかった。

 実際、平岡氏も2020年7月時点で「アメリカのSTIは、一部に熱狂的なファンがいるのだが、いまだにSTIはブランドとしてではなく、モデルグレードとしての認知にとどまっている」と指摘している。そのために、『S209』を中心にSTIブランド全体の底上げが必須だという。

 そうした点を考慮すれば今回、2.5Lユニットを搭載したWRX STIを2021年モデルとして継続的にアメリカ導入することは、スバルおよびSTIとしては当然の流れだと思う。

 アメリカ市場では一般的に、フルモデルチェンジやマイナーチェンジといった考え方ではなく、毎年イヤーモデルとして商品改良する商法であり、2021年モデルについても、全米スバルディーラーからの各種要望を踏まえた細かい改良にとどまっている印象がある。

 こうしたアメリカ市場と比べて日本では、STIの商品改良とは走りの本質に根差した本格的な技術進化を求める声が多く、そのためにEJ20ファイナルエディションが存在した。

 日本向け『次期WRX STI』の登場は、いましばらくの時間が必要だ。

【画像ギャラリー】日本で新車はもうちょっとお預け!? 現行WRX STIを見る!

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