見逃せない“外圧”の影響
自動車検査場での検査業務を手掛ける、独立行政法人の自動車技術総合機構によると、かつて速度警告音を発する装置は、保安基準第46条第2項「速度警報装置の装備要件及び性能要件」において装備が義務づけられていた。
車検において速度計の誤差や指針の振れ具合のチェックとともに、警告音が発生することを確認していたとされる。
速度警告音装置の装備が始まった初期(1970年代半ば以降とされる)には、メーター裏側に装着された小型の鉄琴と呼べるような装置を使って警告音を発していたモデルも多く存在したという。
警告チャイムを鳴らす部品は単純な構造で、電磁石で鉄芯を引っ張ったり離したりすることで、鉄芯の両側に置かれた鉄琴を叩くというものだった。
1980年頃から電子音のブザーが発生するタイプも増加していった。ほぼ同時期からデジタルメーターの採用が始まったことも速度警告音の機能がなくなっていく要因になっていたかもしれない。
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なぜ警告チャイムが1980年代以降消滅していったのか?
なぜ「キンコン音」が1980年代以降に消滅していったのかを探っていこう。当時の背景として、日本車の性能向上や道路事情の変化というよりも、日本の法律(主に保安基準を含めた車検制度)における「非関税障壁」の撤廃を求めた海外自動車メーカーによる“外圧”の影響があったことが改めて浮かんできた。
すなわち、速度警告音装置の装着が日本独自の規制であったために、海外メーカー、特に日本車の攻勢にさらされていた米国メーカー(当時のビッグスリー)と政府の圧力を受けて廃止された経緯があり、“政治的理由”という、あまり馴染みの薄い要因で消えていったという経緯があったようだ。
この件に関して日本自動車輸入組合によれば、速度警告音装置は日本独自の装備であるとして、日米自動車協議の場で米国政府から日本政府に対して撤廃が求められたと報じられ(灯火類も“障壁”として追及されたと記憶している)、細部におよぶ法律の変更を要求されたという。
このなかで「非関税障壁」の具体例として、速度警告音発生装置が槍玉に挙げられたともいえる。
すなわち、本来この装置が装備されていない輸入車では、日本車の保安基準によって装着が義務化されていることで車検を含む認証作業に手間がかかるなどを理由に批判が高まった。「キンコン音」はあくまで日本独自のものであり、海外では使用されていない装備だったことが問題とされたのだ。
経緯の詳細は明らかではないが、結果として1986(昭和61)年3月に、この第46条第2項は項目そのものが削除された。自動車技術総合機構によると「速度警告音のように保安基準上から項目そのものが撤廃される例は珍しいかもしれない」とのことだから、技術的な問題とは考えにくい。
こうして、法律で義務付けられていた「キンコン音」の警告音装置は次第に消滅していくことになった。
当然ながら車検でのチェックもなくなり、速度警告音の機能は、2000年代まで一部の車種にはオプション装備として設定されていたとはいえ、最終的には新車への装備を設定しなくなったようだ。
あくまで感覚的といってよい話になるが、日本車でも1990年代になると性能向上によって100km/h巡航が安全かつ容易になったこともあったことも、消滅の理由として挙げておきたい。
コメント
コメントの使い方これが原因で速度がらみの殺人事件が発生する