プリウスの役目はもう終わったのか!? SUV人気&ハイブリッド車乱立で変わった情勢

プリウスの役目はもう終わったのか!? SUV人気&ハイブリッド車乱立で変わった情勢

 トヨタ『プリウス』が、販売成績を落としている。一昨年の2019年の年間販売台数で1位であったのが、1年後の2020年1~12月の年間販売台数で12位に下げた。年間販売台数も、12万2587台/年であったのが、6万7297台で、半減に近い。

 現行プリウスは、2015年にモデルチェンジによって4代目となり、5年を経ている。とはいえ、2011年に発売を開始して今年で10年となるトヨタ『アクア』がなお5万9548台/年を売っているのだから、アクアの手堅い人気もたいしたものだが、プリウスの人気が急落していることも目に留まる。

 2020年は、新型コロナウィルスの影響が販売に大きく影を落とし、今年もなおその影響はしばらく続くと考えられる。しかしそうしたなかで、トヨタは売り上げベスト10に7台も車種を入れているのだから、そこから漏れたプリウスの凋落が余計目についてしまうのである。

 もうプリウスはHVの旗印としての役目を終えてしまったのか!? それともその価値は今後も健在なのか!? プリウスの誕生から現在までの市場の変化などを踏まえつつ、プリウスが担うべき役割を考察していく。

文/御堀直嗣
写真/TOYOTA

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■新たな自動車像を世に広めたパイオニア

 プリウスは、1997年12月に初代が発売された。

 1990年代は、米国カリフォルニア州でZEV(ゼロ・エミッション・ヴィークル=排出ガスゼロ車)法が施行されることとなり、トヨタ、日産、ホンダは、電気自動車(EV)開発に奔走した。そして、トヨタ『RAV4 EV』、日産『ルネッサEV』、ホンダ『EVプラス』といった試作車がつくられ、実証実験を繰り返したのである。その際に各社が使ったバッテリーは、トヨタとホンダがニッケル水素で、日産はリチウムイオンだった。

1997年、「21世紀に間に合いました」というキャッチコピーを掲げ、トヨタ『プリウス』が発表された。初公開の記者会後にEV走行で走り去る演出含め、世界を驚愕させたクルマだ
1997年、「21世紀に間に合いました」というキャッチコピーを掲げ、トヨタ『プリウス』が発表された。初公開の記者会後にEV走行で走り去る演出含め、世界を驚愕させたクルマだ

 開発初期段階での鉛酸バッテリーから比べれば一充電走行距離は伸ばせたが、それでも、性能の安定や安全性の確保、また量産体制の構築など、市販へ向けてやるべきことが多く、一朝一夕にはいかない状況であった。充電の社会基盤整備もまだ手付かずだった。

 そうしたなか、トヨタ社内で並行して開発されていたのがハイブリッド車である。そもそもは、21世紀を迎えるにあたり、どのような自動車像が考えられるかとの摸索からはじまり、そこから乗用車の燃費を半分に減らす具体的な目標が掲げられた。その回答が、HVだったのである。

第31回東京モーターショーに登場した『プリウス』。この時発表されたシステムはEMS(エネルギー・マネージメント・システム)という、THSとは違う構造のシステムだった。なんとこれ、THS量産発表までのカモフラージュとして出した物らしい
第31回東京モーターショーに登場した『プリウス』。この時発表されたシステムはEMS(エネルギー・マネージメント・システム)という、THSとは違う構造のシステムだった。なんとこれ、THS量産発表までのカモフラージュとして出した物らしい

 トヨタは、1960年代にもHVを研究・開発していたことがある。タービンエンジンを使った実験車で、トヨタ『センチュリー』やトヨタ『S800』を使ってつくられた。しかしそれらが市販へ向け動き出すことはなかった。また、当時のハイブリッドシステムは、現在のトヨタ・ハイブリッド・システム(THS)とは異なるシリーズ式で、タービンエンジンで発電し、モーターで駆動する方式であった。

 プリウスの開発は、それら過去の経験とは切り離されて進められ、採用したのがシリーズ・パラレル式という独創のハイブリッドシステムである。モーター/発電機を2個装備することにより、モーターとガソリンエンジンによる駆動と、走行中に発電して充電する機能を併せ持ち、これによって開発目標であるガソリンエンジン車の2倍の燃費性能を実現したのであった。

 開発の終盤に、東富士のテストコースで試験車に試乗する機会を得た。トヨタ『プレミオ』に搭載されたシステムは、エンジンルームに整然と収まる小型で精緻な姿であり、完成度の高さを見せていた。

 市販された初代プリウスは、日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した。しかし当時はまだ、フットブレーキと回生の適合が必ずしも十分でなかったり、高速域で出力に物足りなさを覚えさせたりするところもあった。とはいえ、世界初の量産HVの登場であり、トヨタは初代プリウスの完成を、21世紀に間に合わせることができたとした。

現行、4代目プリウスの4WDシャーシ。THS-IIという名称になってからそのまま15年以上経っているが、名前と動作原理以外はほぼすべてが更新されている
現行、4代目プリウスの4WDシャーシ。THS-IIという名称になってからそのまま15年以上経っているが、名前と動作原理以外はほぼすべてが更新されている

 初代の販売台数は必ずしも順調とはいえなかったが、2代目になると次第に認知度を高め、販売台数を伸ばし、さらに前型となる3代目で爆発的な販売を達成した。続いてトヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー(TNGA)の手法にのっとり開発されたのが、現在の4代目である。

 技術の進歩という点において、現行プリウスは大きく前進した。リチウムイオンバッテリー搭載車を加え、動力分割機構も新たな方式により損失を減らすなど、きめ細かい技術的進化を遂げている。

 一方で、HVの基本的な構成や価値は、3代目までで完成の域に近づいていたといえる。2代目プリウスで、ハイブリッドシステムは動力性能も高め、THS-IIとして、「ハイブリッド・シナジー・ドライブ」の概念を打ち出した。また上級のクラウンやレクサス車への展開も行われている。

 車名であるプリウスの意味は、「~に先駆けて」である。初代はまさに時代に先駆け、実用化されずにいるEVに先駆け、燃費性能を2倍にするというほかに例を見ない先駆者であった。しかし20年近くを経た4代目ともなると、もはや目新しさはない。EVも2009年には市販され、時代に先駆けていないのである。それが販売台数に表れたといえるだろう。

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