■ひと筋縄ではいかないEVをけん引する存在に
では、プリウスの価値はもう失われたのか? 私はそうではないと考える。トヨタには、まだ先駆けなければならない課題が残されているからだ。それはEVだ。
プリウスとHVの成功によって、トヨタはEVで出遅れた。それに対し、トヨタはHVの技術があればEVはつくれると言ってきた。しかし、そもそもEVは利用の仕方がエンジン車やHVと異なるので、物をつくれることと、消費者に買ってもらえることとは別の問題になる。日産が『リーフ』の販売で苦戦したのは、単に一充電走行距離の問題だけではない。
トヨタが、初代プリウスを発売した際に消費者へ伝えたのは、「これまでのガソリン車と同じように使えるクルマ」であることだった。しかしEVは、ガソリン車やHVと違う使い方を求め、それが人生観さえも変えてしまう力を持っている。そして生活の仕方を改めることが、本当の意味で環境に適合した社会との共生となるのだ。そこを知らず、物をつくれば売れると考えるのは浅はかである。
EVの本当の価値や意味は、実際に売ってみないとわからない。ホンダ『ホンダe』の開発者も、売ってみてはじめてやるべきことが山積していることに気づかされたと語っている。そして日産は、そこに手を打ちはじめているのである。
日産の取り組みは、単にリーフの走行距離を伸ばすだけでなく、使用後のリチウムイオンバッテリーの事業化であり、またEVから家庭や事務所へ電気を供給することであり、それらを総合した社会的な電力網の再構築と安心の提供である。
トヨタのHVなども、災害時などには外部へ電力供給を行えるとするが、EVがやっていることは緊急時だけでなく日常生活の安定と安心に資する取り組みである。つまり、これこそ本当の意味で自動車メーカーが自動車づくりだけでなくなるということなのだ。
プリウスがなすべきは、クルマとしてのEV化だけでなく、環境に配慮した社会の枠組みの中にどうクルマ=モビリティを汲み込み、一翼を担えるかであり、それは「~に先駆ける」これからの社会貢献につながるのである。
消費者は、そうしたクルマの誕生に共感する時代となっている。
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