■ビート/1991年登場
ビート人気は、現在でも非常に根強く底堅い。S660に先んじて軽ミッドシップスポーツを発売したホンダの気合おそるべし。
ただ、発表当時の私は、ビートに乗って、あまり楽しいとは思わなかった。その最大の理由は、ハンドリングがあまりにもアンダーステアだったからだ。
ホンダとしては、危険なクルマにだけはしたくなかったのだろう。だからミドシップなのに、ものすごく簡単にアンダーステアが出た。
フロントタイヤがまるで踏ん張らず、すぐ外に流れるのです。これじゃミッドシップにした意味がないじゃないか! ビートはミドシップの利点を生かすんじゃなく、ミッドシップに作ることが目的なのか! と思いました。
エンジンは660ccのNA。64馬力を達成していたけれど、カリカリの高回転高出力タイプで、フツーに街乗りしてると、トルクがスカスカでメッチャ遅い。ひたすらブチ回すしかない。
しかし、それらの欠点は、今となってはすべてが美点だ。幌を開けると身体が剥き出しになり、超無防備に感じるボディ、日常域で非力ゆえに、ブチ回すしかないエンジン、すべてがあまりにも尖っている。
つまり、クルマとしてのデキが猛烈に片寄っているからこそ、誕生から30年を経たいま、一部マニアに限りなく大切にされているのですね。ビートは、完璧なるミッドシップマシンであるS660とは、まるでベクトルの違うクルマでした。
■初代NSX/1990年登場
いま振り返れば、初代NSXは偉大だった。オールアルミボディや乗りやすいスーパースポーツといった新機軸を数多く世に問い、世界のスーパーカーに多大な影響を与えた。フェラーリ崇拝者である私としては、NSXがフェラーリのクルマ作りを変えたことが、一番大きな功績だった気もしている。
ただ、当時は、「スーパーカーはそういうもんじゃない!」と強く思った。フェラーリやポルシェとガチで戦うには、あまりにも教科書的で薄味だったのだ。
思い起こせば、ホンダの栃木テストコースで行われたNSXのプロトタイプ試乗会には、想定ライバルたるフェラーリ328が用意されていて、そちらも比較試乗することができた。
当時私は、池沢早人師先生のおかげでテスタロッサを知ったばかりで、まだ328は未経験。ホンダ様のおかげで、初めて328を運転させていただきました。
あの時の328は、おそらく日本仕様。排ガス対策により、今自分が所有しているヨーロッパ仕様と比べると、ぜんぜんエンジンに元気がなかったけれど、それでもフェラーリの味わいの濃さはケタはずれで、NSXプロトがただの乗用車に思えてしまった。あの時乗り比べた者の多くがそう思ったはずだ。
その後NSXは、エンジンをDOHC化するなどの改良を加えられて発売されたけれど、やっぱり乗用車の延長線上のクルマで、スーパーカーとしては何もかもが物足りなかった。
エンジンは「回るだけ」で刺激が薄かったし、操縦性の良さは、限界まで攻めないと味わえない。インテRならあれで良いんだけれど、スーパーカーはその延長線上じゃダメなのだ。
NSXを心から絶賛したのは、サーキットが主戦場のレーシングドライバーだけだと私は思っている。
フェラーリ崇拝者から見ると、NSXはフェラーリの踏み台。多くのクルマ好きが「フェラーリは無理だから」とNSXを買い、その後、根性のある者はフェラーリへと乗り換えた。その時みんなこう言いました。「やっとホンモノが買えました!」と。あの優秀な操縦性も、F355に取り入れられた。
もちろん、NSXファンはフェラーリと比べたりしないでしょうけれど、公道で乗り比べれば、刺激レベルは一ケタ違う。それは、15年間で1万8000台という販売台数に表れている。値段の高いフェラーリのほうが、台数もはるかに売れたのです。
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