なぜ国産は衰退!? 水野和敏が語るセダンの本質と「あるべき姿」

■クラウンユーザーは変化を求めたのか?

 話が現行型クラウンに集中してしまっていますが、今の日本車である程度の台数を販売できるセダンがクラウンしかないし、私はクラウンこそが日本のプレミアムと思っていましたのであえて例題にさせていただいています。

 新型クラウンの開発ではニュルブルクリンクで走りを鍛えたと言っていますが、これはキャデラックCTSのニュル開発に似ています。

 クラウンクラスのドイツ車が、前型のクラウンに滑らかさや静かさで劣るのは、ニュルで開発をするからです。ここが見抜けていないのです。

ベンツもBMWもニュルで操安を鍛えているが、その代償に滑らかな乗り味と静かな室内は先代型クラウンには及ばぬものだった。現行型クラウンは操安を追い求め、せっかくの美点を失ってしまった
ベンツもBMWもニュルで操安を鍛えているが、その代償に滑らかな乗り味と静かな室内は先代型クラウンには及ばぬものだった。現行型クラウンは操安を追い求め、せっかくの美点を失ってしまった

 これまでクラウンの美点はメルセデスやBMWには作れない、ジャガーを超える世界屈指の滑らかな走りと静粛性でした。操安性もギスギスさせずその魅力を引き出した、少し鈍感だがバランスがよく、日本の道路事情に合っているという点です。

 操安性と違い、滑らかさや静粛性はディーラー試乗や他人を乗せても、クルマはどれも同じと思っている人にもわかりやすく、プレミアム感を自慢しやすい商品要素です。

 レクサス車と異なり、クラウンは基本的には国内専売モデルなのですから、「クルマは皆同じ」と思ってるユーザーに対して「ドイツ人が作れないクルマに乗っている」というわかりやすい優越感と誇りがある、プレミアム性の進化が肝だと思います。

 超高速で路面が厳しく、テストコースより3倍近い負荷入力が入るニュルを走れば、必然的にしっかり感を追求します。

 リアサブフレームやアームのゴムブッシュを硬くしたり、スプリングやショックアブを固めたりなど余計な動きを止めようとします。そうするとロードノイズなどの騒音や各種振動は直接室内に入ってきます。

 結果、前型クラウンにあった滑らかさや静粛性は失われてしまいました。

 そのいっぽうで得られた操安性はベンツやBMWには及びません。ドイツメーカーは専門部隊がニュルに常駐して作り込んでいます。

 私もR35GT-Rの開発では、ニュルを使いポルシェを超える性能開発をしました。

 その中身は、メーカー合同のインダストリー・プールでは3台のGT-Rをさまざまなテストとともに世界一速いタイムで走らせ続け、3週間で1万km以上の距離(常駐メーカーの半年分の走行距離)を毎回走らせました。「ニュルで鍛えました」というレベルではないのです。

 トヨタの開発企画の担当者は、従来のクラウンのお客様は年齢層も上がり、新たなお客様のニーズを掘り起こす必要がある、という趣旨のことを言っています。

 確かにそれは正しいでしょう。ユーザー層の若返りはマストです。

 しかし、若返りイコール、少しよくなった操安性なのでしょうか? 評論家の記事は書きやすいですが、お客様がプレミアム感を持ち、他人に自慢しやすい商品要件です、と言えるでしょうか? 

次期型クラウンがSUVになるという声もあるが……(画像はベストカー編集部による予想CG)
次期型クラウンがSUVになるという声もあるが……(画像はベストカー編集部による予想CG)

 仮にクラウンの新たなターゲットユーザーを30代後半から40歳代に据えたとしましょう。クルマに興味がないとメディアでは言われている年代層です。

 しかし同時にベンツのCやAクラス、BMWやアウディなどに移行してプレミアムセダンを購買している世代でもあります。

 ネット情報等を使いこなし、先ほど言いましたが欧州車の「プレミアムとしてのデザインの本質要件や先進技術と一体となった賢い加飾デザイン、セダン本来の室内や装備のプレミアム進化」を調べ見抜いて購買する人たちに、特徴が中途半端なプレミアムセダンが世代交代で受け入れられるのでしょうか?

 そのなかで国産のプレミアムセダンは今後どう存在していけばいいのでしょうか?

 簡単です。世界にいまだない、セダンやクーペにしかできないプレミアムなサルーンを創ればいいのです。

次ページは : ■欧州勢と同じ土俵に立てるプレミアムサルーンは作れる “設計図”はすでにある

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