なぜ国産は衰退!? 水野和敏が語るセダンの本質と「あるべき姿」

■「日本のセダン」が売れていないだけ

 アナリストの方々や、自動車評論家の皆さんは、口をそろえて「車種の多様化がセダン凋落の要因」だと言います。

 1990年代後半から2000年代にかけてはミニバンやハッチバックがファミリーカーの中心になり、カローラやサニーのような、いわゆる廉価版セダンの販売は落ち込みました。

 軽自動車がワンボックス主体に移行したように、普通車も低価格帯のクルマは、燃費や性能が多少落ちても「何にでも使える多機能性」が大事な商品要件だからです。

 しかし評論家が言う「SUV人気により、ミッドサイズやプレミアムクラスのセダンがとって代わられた」という見解は違っているのです。

 確かにその側面も、一部にはあるかもしれません。

 しかし、クラウンやレクサスLSなどが位置する“プレミアムセダン”の世界では、それは当てはまりません。

1999年登場の11代目クラウン。2000年の年間販売台数は10万台を超えていた
1999年登場の11代目クラウン。2000年の年間販売台数は10万台を超えていた

 確かに今、SUVは世界の自動車メーカーがこぞって新型車を投入しています。ベンツ、BMWはもちろんのこと、ポルシェやマセラティ、ベントレーやロールスロイスもSUVを投入しています。

 しかし、これらのSUVが売れることで、例えばベントレーのセダンが販売台数を落としたのかというとそんなことはありません。

 ベンツもBMWもGLSやX5が販売台数を伸ばすことで、Sクラスや5シリーズが売れなくなったのでしょうか?

 世界的に見ると、そのようなことはありません。SUVは「ユニーク嗜好の増車」なのです。日本でも富裕層はSUVを2台目、3台目として購入しているのです。

2003年登場の12代目。いわゆる「ゼロクラウン」。2005年の販売台数は7万9557台で、数を減らし始めてはいるものの、まだまだ勢いは感じた
2003年登場の12代目。いわゆる「ゼロクラウン」。2005年の販売台数は7万9557台で、数を減らし始めてはいるものの、まだまだ勢いは感じた

 そのような人たちにとって、プレミアムセダンは「当然所有している」前提です。セダンのバリエーションを作っても、すでに1台持っているオーナーは「もう1台のセダン」は買いませんが、スポーツカーやSUVであれば買ってくれるのです。

「セダンかSUVか」という選択肢ではなく、フォーマルで社会的ヒエラルキーを持つセダン(サルーン)に加えて、ユニークでプライベート嗜好のSUVの追加による増車が、本来メーカーが狙った戦略なのです。

 レクサスLSやクラウンのユーザーはこちらです。ホンダのレジェンドや、日産のシーマ、フーガなどもこちらに属するプレミアムセダンです。

 とはいえ、現実的にそのような富裕層がすべてではなく、かなりのユーザーは「これ1台」でクルマを選びます。つまり「セダンかSUVか」です。

2008年に登場した13代目クラウン。ゼロクラウンを正常進化させた、オーソドックスなプロポーションのクラウンだった。2010年の販売台数は4万636台
2008年に登場した13代目クラウン。ゼロクラウンを正常進化させた、オーソドックスなプロポーションのクラウンだった。2010年の販売台数は4万636台

 前々から私が言っているように、SUVはユニークな存在でクラス感がなく、言葉を換えれば社会の階層ヒエラルキーから解放されるクルマなのです。現在ヤリスクロスやC-HRなどが売れている現象です。

 コロナやブルーバードクラスまでは世間が言うように「車種の多様化」によって、セダンは淘汰された、と言って間違いありません。

 しかし世の中は「表と裏」があります。エコカーが売れると必ずスポーツカーも売れる。SUVで社会のヒエラルキーから解放されたい人がいるいっぽうで、フォーマルで知的なプレミアム感に浸りたい人がいる。それがプレミアムセダンなのです。

 問題は国産のプレミアムセダンにあります。

 クラウンの販売台数は冒頭に言いましたとおり、ここ20年で4分の1、前型との比較でも半減しています。フーガの年間販売台数は821台、レジェンドはわずか216台にすぎません。スカイラインでも4000台を切っています。

2012年登場の先代型クラウン
2012年登場の先代型クラウン

 これに対し、例えばBMW3シリーズは8508台、ベンツEクラスは4658台、ベンツCクラスは6689台と堅調を維持しているのです。

 Eクラスは前年に対し販売台数を落としていますが、昨秋のマイチェンを前にしたモデルであることを考えれば堅調と見ていいでしょう。さすがにクラウンの販売台数には及ばないものの、レクサスLSを圧倒的にリードしていますし、アコードやスカイラインを上回る販売台数です。

 これはどういうことでしょうか?

 つまり、「国内でプレミアムセダンが売れなくなった」のではなく、「国産のプレミアムセダンが売れていない」ということです。さらに言えば、これはつまり国産セダンを買っていたユーザーが、輸入車セダンへ流れていった、ということなのです。

 クラウンの価格はおおよそ500万から700万円です。スカイラインは430万から650万円です。この金額を出せるのなら、BMW3シリーズやベンツCクラスがターゲットになります。

 レクサスLSは1000万円を超え、中心ゾーンは1200万から1500万円です。これはもう、新しくなったベンツSクラスが直接「価格的ライバル」です。クルマとしての価値を見比べれば、レクサスLSではなく、ベンツSクラスを選ぶ人が多いでしょう。

 さすがベンツはよくわかっているなと感じるのが、この新型Sクラスや新型Cクラスです。

 インテリアはサルーンにしかできないプレミアム感と先進技術の進化を飛躍的に革新させながら、エクステリアはセダンとしてのプレミアム感を演出するための“不変な本質のバランス配分”を変えることなく死守し、最新技術に裏付けされた加飾デザインだけを変えています。

 性能や燃費をトレードオフしてユニークさや奇抜さを追うSUVとは対極的に、プレミアムセダンだからできる性能&機能の向上と併せて、フォーマルで社会的に認知されるプレミアム性や賢さを向上させています。

 もし新型クラウンのようにFFか5ドアハッチバックかわからないような、セダンの本質を外したデザインにしたら、それこそ社会的フォーマルさやプレミアム性を求めるユーザー層からは敬遠されてしまいます。

 今一度繰り返しますが、日本国内でセダンが売れていないのではなく、国産セダンが“売れなく”しているのです。

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