■ホンダの発表への3つの疑問
ホンダのこの決定は、自動車関連メディアのみならず一般のマスコミにも大きな衝撃として受け止められたが、そこで言及された疑問点はだいたい以下の三つに集約できる。
(1)そもそも、本当に達成可能なのか?
(2)HEVやPHEVを活用したほうがいいのでは?
(3)エンジン技術者のモチベーションが落ちるのでは?
(1)については、ぼくの見た限りでは達成可能と書いたメディアは発見できなかった。
さまざまなシンクタンクがEVの需要予測を行なっているが、2040年にはまだ純エンジン車が50%前後、HEVやPHEVを加えると7〜8割程度は内燃機関搭載車が残るというリポートが多い。
予測の2倍とか3倍でEVの需要が増えたとしても、世界市場全体で見ると2040年の段階では内燃機関を積んだクルマが半分以上は残るとみられている。
だから、ぼくが今回のホンダの発表でいちばん驚いたのは、2040年に「グローバルで内燃機関を全廃する」と言明した点。これはつまり、新興国市場を中心に世界の半分のマーケットを捨てるということで、誰もが「そんなことできるの?」と思うよね。
また、コロナの影響がなければ、ホンダのグローバル販売台数は年間520万台ほどだが、このうちの2割をEV/FCVにするには、2030年に年100万台以上のEV/FCVを売らなければならない。
この手の画期的新製品の売り上げは、伸びる時には指数関数的に伸びることが期待されるが、2021年に1万台、2022年には4万台、2023年には9万台……という風に伸ばしていかないと、2030年の100万台に届かない。どんな基準をもってしても空前絶後の野心的な計画と言わざるを得ない。
事業会社の売り上げは、実績を積み重ねた結果として目標に到達すれば健全だが、最初に目標を決めて現場の数字をそれに合わせようとするとロクなことにならない。ホンダ自身、つい数年前に「グローバル600万台」という大風呂敷を広げたことで現場が大混乱したのは記憶に新しい。
10年でEV/FCVの販売を100万台まで伸ばすという計画は、それ以上にチャレンジングなテーマだと思うのだが、はたして本当に成算があるのだろうか?
(2)についても批判的な意見が多い。
走行中にはCO2を排出しないEVも、電池を充電するための電力は発電所から供給される。そこで排出されるCO2を含めた「ウェル・トゥ・ホイール」でCO2排出量をカウントしなければフェアじゃない。これは、ようやく一般にも知られるようになってきた事実だ。
グローバルで見ると石炭火力発電のシェアが35%もある現状では、高効率なHEVやPHEVのCO2排出量はEVと遜色のないレベルにある。これを無為に捨て去るのは理屈に合わないし、世界に向けて「いい子ちゃん」ぶりたいだけではないか、という批判すらある。
(3)はぼくが個人的に大いに懸念している問題点だ。
自動車メーカーの資産はいろいろあるように見えるが、ぼくはつまるところ人間だと思っている。
ホンダについていえば、初期には本田宗一郎というカリスマの魅力に惹かれて人が集まり、後には「F1がやりたいからホンダに入った」というようなクルマ好きがたくさん入社した。そして、それがホンダという自動車メーカーのユニークなキャラクターを創る原動力となった。
内燃機関をやめるという決断をしたのならそれはしょうがないが、それに代わる未来に向けたホンダのビジョンを示せないと、技術者のモチベーションが低下する恐れがある。これは長期的な問題ではなく、来年の新卒採用から即座に影響が出る喫緊の課題だと思う。
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