■「スープラ祭り」が起こるほどの北米市場
ところで、北米にはもともと「JDM」と呼ばれる日本車をカスタマイズする文化があるが、そのなかでもスープラは別格的に人気がある。
それには2001年にスタートした大ヒット映画「ワイルドスピード」シリーズの存在が大きい。主人公の愛車として登場する80スープラが多くのファンの心を掴んだのだ。
せっかく人気に火がついたところで、ほどなく絶版車となってしまったわけだが、のちの作品にも回想シーンなどで継続的に露出があったことでスープラの名前と姿は広く浸透し、人気は定着した。
それゆえスープラが再び出てくることを多くのファンがずっと待ち望んでいた。復活をとげたのはアメリカのファンの声に応えるためというのがもっとも大きな理由といって過言ではない。
そう考えるとスープラが他社とのコラボで生まれたのも実は合点がいく。日本人の気質からすると中身がほぼBMWと共通であることがとやかく言われるのはトヨタとしてもわかりきっていたはずだが、それより優先すべきは北米市場。
アメリカ人にとっては、あまりそのあたりの事情が気になることもなく、とにかくスープラでありさえすればウェルカムだ。むろん見込まれる市場規模がそれなりに大きいことも重視する理由となる。
実はスープラがワールドプレミアされた2019年のデトロイトショーには筆者も取材に行っていたのだが、まさしく「スープラ祭り」といえる現地の状況を目の当たりにした次第。
異様なまでの盛り上がりに驚き、いかにスープラが愛されているか、そして本当に多くのファンが復活を心から喜んでいる様子がヒシヒシと伝わってきた。最初のロットで1500台が販売された「ローンチエディション」が即座に完売となったのも納得だ。
■多田氏が去り、スープラの今後が不安だ
そんな現行スープラも、そう遠くないうちにマイナーチェンジを迎えてもおかしくない時期にさしかかってきたが、ドライバビリティの高さは定評があり、またRZのエンジン出力もすでに引き上げられていることから、今後なにか大きく変えて欲しいという点は特にない。
ややナーバスな操縦性については、もう少し寛容でもよい気もしなくないが、その針の糸を通すかのような鋭い切れ味もまたスープラの持ち味のひとつだ。
ただし、MT仕様を求める声は依然として少なくなく、ATの好まれる北米でもスポーツカーについてはMTの人気が高いので、あったほうがより販売面でも有利になるのはいうまでもないが、どうやらいまのところそれはなさそうだ。
気がかりなのは、スープラひいてはトヨタのスポーツカーの顔であった多田哲哉氏がトヨタを去ったことだ。
例えば日産GT-Rは開発者の水野和敏氏が日産を離れても田村宏志氏という強力な個性が巧く引き継いだが、かたやZ34のフェアレディZは湯川伸次郎氏がいなくなったとたん急速に存在感が薄れた。
こうしたキャラの立ったスポーツカーであればあるほど、作り手の顔が見えたほうがよい。特に日本では。スープラにはZ34と同じ轍を踏まないよう願いたい。
ところで、今年の夏にアメリカで公開されるワイルドスピードの新作には、新しいスープラが登場する予定というから楽しみ。好調な販売にさらにはずみがつきそうだ。
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