■脱エンジンのためには、電池の確保が最優先。その根回しは着実に進行中か
しかし、実際にそれを実現できるのかとの懸念もあるだろう。
今後、EVの販売比率を増やすうえでカギを握るのは、リチウムイオンバッテリー生産量の確保だ。これについて、同じくEVメーカー宣言をしている米国のゼネラルモーターズ(GM)と提携関係を持つホンダは、GMのアルティウムバッテリーの利用と、それを基にしたプラットフォームの供用を昨年4月に結んだ。
これは現地法人のアメリカン・ホンダモーターによる発表だが、そのなかでGMの担当者は、「(前略)~今度の共同開発が両者の完全電動化へ向けた新たな第一歩であり、規模の拡大と生産能力の活用により収益性の高いEVビジネスをもたらす~(後略)」と述べている。
ドイツのフォルクスワーゲンが、リチウムバッテリー生産のギガファクトリーを欧州で6カ所建設するとの話があるように、EV化においてはまずバッテリー確保が肝心になる。その最初の手を、ホンダは世界第2位の市場である米国で足固めしはじめているのである。
GM担当者が述べた規模の拡大と生産能力という点においては、すでに米国のテスラが実証している。中国・上海のギガファクトリーにおいて、モデル3専用のリチウムイオンバッテリー生産をはじめたことで、日本で販売されるモデル3の新車価格は従来に比べ約80万~150万円も安くなった。
今後は、中国でもホンダはリチウムイオンバッテリー確保へ動かなければならないはずだ。それに際して、ホンダは日本メーカーのなかでも早くから中国と密接な関係を模索してきた歴史がある。
かつて、ホンダが中国で販売するバイクの部品とそっくりの製品を作る中国メーカーがあり、それはもちろん無断の模倣品であったが、その品質が高かったため純正部品メーカーとして契約したことがあった。
ホンダは、創業時よりバイクや発電機などの汎用部品で小さく種をまき、そこからクルマを売るような大きな市場へ育てていく経営姿勢を大切にする。
いま、EV化を進めるに際して、上記のような親密な関係性を軸とした中国でのリチウムイオンバッテリー確保を進めていくことで、中国市場でのEV販売も地盤固めができる可能性があるのではないか。
GMとの共同により米国で、そして中国での購買や生産などが着実に進められていけば、両市場を軸とした欧州と日本・アジアへのEV導入も進むはずだ。
2040年と年月を切っての三部社長の発言に、大胆さという驚きを覚えた人は多いかもしれないが、その背景に着実な事業への根回しがあると想像できる。
■将来的には自動運転や共同利用可能なEVを軸とした移動社会を実現か
次に、では消費者はそのような大胆な新車導入の変化を歓迎するのかという課題がある。しかし私は、それも心配ないと考える。
わずか10年先の2030年には、今日の20~30代の人々が、30~40代となり、社会の中核をなすようになる。
私のような昭和育ちの人間は、高度成長とバブル経済期を経験しながら育ち、高価なものでも本物といわれ伝統に裏付けられたいい品であれば手に入れる価値があることを教えられた。まだ収入の少ない若年の時代にも、経済成長のなかで育てば将来への不安は少ない。
一方、低成長時代の現代は、一歩先の未来は予測できない。直近でも、新型コロナウィルスの影響で大手企業においても存続の危機に立たされ、職を失う不安と戦う人々は多いはずだ。
そうした今日、いまを快く安心して生きられることが大切になる。またそれが、手ごろな価格である点も重要だ。
そうした時代に育った世代の消費形態は、昭和生まれの人と違って当然だ。そこに、クルマ業界でいえばCASEが当てはまる。コネクティッドによって情報を入手でき、不安を解消して移動できる。オートノマスによって運転に自信のない人でも移動の自由を手に入れられる。
シェアードによって所有せず利用することで、安価な移動が約束される。エレクトリックによって、SDGsを含め、持続可能な社会を目指すことができる。
先の見通せない時代に、老若男女を問わず安心して移動し、暮らしを成り立たせることができるのは、EVを軸とした自動運転や共同利用の社会づくりによるのは間違いないだろう。
コメント
コメントの使い方