■なぜ同じSUVで車格も近いハリアーとRAV4は共存できているのか
ハリアーとRAV4が共存できる理由は、両車ともに、SUVの本質を突いた異なる魅力を備えているからだ。
SUVは2つのタイプにわけられる。ひとつは悪路の走破力を重視するタイプだ。この代表は後輪駆動をベースにした4WDと副変速機を備えるランドクルーザーだが、RAV4も前輪駆動のプラットフォームを使いながら、悪路向けSUVの特徴を備える。
RAV4のフロントマスクは野性的な雰囲気で、最低地上高(路面とボディの最も低い部分との間隔)は190~200mmを確保する。悪路のデコボコも乗り越えやすい。
2Lのノーマルエンジンを搭載する「アドベンチャー」と「G・Zパッケージ」には、ダイナミックトルクベクタリングAWDが装着され、走行状態に応じて後輪左右の駆動力を積極的に変化させる。
例えば右に曲がる時は、旋回の外側に位置する左側の後輪に高い駆動力を配分して、車両の向きを積極的に変える。このダイナミックトルクベクタリングAWDは、舗装路、悪路を問わず、走行安定性を向上させる。スポーティなRAV4を代表するメカニズムだ。
一方、SUVの2つ目のタイプは、近年になって増えたシティ派だ。内外装の野性的な雰囲気は乏しいが、洗練された質の高さを表現している。SUVとあって居住空間や荷室の広さはワゴンと同等か、それ以上だから、柔軟に動くサスペンションを組み合わせると安定性の優れた快適な移動を楽しめる。
このシティ派SUVの代表がハリアーだ。ボディサイズはRAV4と同程度で、エンジンやプラットフォームも基本的に共通だが、内外装のデザインと雰囲気は大幅に異なる。文字通り都会的で洗練されている。
このようにSUVのカテゴリーでは、ラージ/ミドル/コンパクトというサイズの違いに加えて、悪路向けとシティ派というデザインや悪路走破力の区分もある。そのためにSUVには、さまざまな車種が用意されて売れ行きも伸びた。
RAV4とハリアーは、まさに悪路向けとシティ派という2つの個性をフルに生かして、同サイズで個性の異なる2車種をヒットに結び付けている。
■一度は絶版のRAV4が復活できた背景にSUVの「原点回帰」
ハリアーはもともと上級SUVの定番車種で、乗り替え需要も多かったが、RAV4は国内で一度消滅させながら絶妙なタイミングで復活させた。そこにはSUVの原点回帰が絡む。
近年のSUV市場では、ハリアーに代表されるシティ派が人気を高め、ヴェゼル、C-HR、CX-5、レクサスRX/NXなどが次々に登場して飽和状態になっていた。この反動でSUVの原点へ回帰する需要が生まれ、野性的な車種が注目され始めた。
まさにこの時、商品特性がピッタリなRAV4を復活させて好調に売れた。巧みなSUV市場戦略が、ハリアーとRAV4を共存させている一番の理由だ。
価格も異なる。ハリアーの売れ筋価格帯は、前述の340万~500万円だが、RAV4は270~400万円と安い。
人気グレードのRAV4「アドベンチャー」は、4WD専用車でダイナミックトルクベクタリングAWDを標準装着しながら、価格は331万円だからハリアーを明らかに下まわる。このように価格帯も異なるから、競争が生じにくく共存させやすい。
トヨタの販売店では、ハリアーについて以下のように述べている。
「ハリアーのお客様はRAV4とは違う。ハリアーは従来から人気が高く、先代型からの乗り替え需要も多い。しかも現行型の発売に合わせるように、全店が全車を売る体制に変わったから、他メーカーから乗り替えるお客様も増えて売れ行きが一層伸びた。
デザインや乗り心地が上質だから、メルセデスベンツやBMWからの乗り替えも目立つ。価格が高いこともあり、お客様は中高年齢層が中心だ。今は受注が好調で、2021年5月下旬に契約しても、納車は11月から12月になる」
RAV4はどうか。
「RAV4は価格が割安なこともあり、子育て世代を含めて、比較的若いお客様にも人気が高い。中高年齢層でも、アウトドアを積極的に楽しむようなお客様に好評で、キャラクターがハリアーとは異なる。RAV4とハリアーで選択に悩むお客様は意外に少ない。
売れ行きも堅調で、2021年5月下旬に契約した場合、納車は10月頃だ。半導体の不足もあり、ハリアーほどではないが、納期は伸びる傾向にある」
SUVのカテゴリーでは、ハリアーとRAV4のように、共通のベースを使いながら、いかに性格の異なる魅力的な商品を共存させられるかが大切になっている。これは簡単ではなく、例えばマツダのCX-30とMX-30は、この使い分けが中途半端になってCX-30は堅調に売れてもMX-30は落ち込んだ。
今後は電動化を含めた環境性能の向上、安全装備、運転支援機能、さらに自動運転といった技術開発が求められる。この影響もあり、もはやパワーユニットやプラットフォームを数多くそろえるのは難しい。
同じベースを使いながら、市場のニーズに合った個性的な車種を造り分け、売れ行きを伸ばすことが求められる。
ハリアーとRAV4以外にも、成功例としてインプレッサスポーツをベースにしたXVが挙げられる。派生車種でありながら好調に売れている。カテゴリーは異なるが、ヤリスとヤリスクロスも、相乗効果の伴う商品開発を成功させた。
このようなクルマ造りが活発に行われると、ユーザーの選択肢も広がってクルマ選びが楽しくなる。
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