■車室内レイアウトの複雑化も後押ししている
もうひとつの背景として考えられるのは、運転席周りの情報機器や操作の変革だ。
カーナビゲーションが標準で設定されるようになると、目的地設定などの操作をいかに安全に行うかが課題になる。日本では、画面タッチ式が普及したが、より速度域の高い欧州ではセンターコンソールに設けたコマンドスイッチで操作したほうが、視線をそらす機会や時間を少なくできるのではないかと考えた。
いわゆる、ブラインド操作ができるのは、コマンドスイッチだろうというわけだ。
センターコンソールにコマンドスイッチを設けると、シフトレバーの配置に課題が生じる。シフトレバーもコマンドスイッチも、運転者が自然に手を動かしたところに存在することが求められるからだ。
しかし、人の腕の動きは制約があり、最良の位置はひとつしかない。コマンドスイッチを優先すれば、シフトレバーの行き場がなくなる。したがって変速をスイッチ化し、マニュアル操作を必要とするならパドルスイッチで行えばいいという判断になる。
ほかにも、カーナビゲーションの存在と、その画面の拡大によって、従来はダッシュボード中央にあった空調の吹き出し口の配置に課題が生まれた。
室内の広さに応じて、空調の吹き出し口はそれなりの吹き出し面積が必要で、なおかつ効率的な風の流れをつくればければ、前席はもとより後席まで含めた室内の循環を生み出せない。同時にまた、空調の調節用スイッチの配置も必要になる。
移行期間には暫定的に、画面のタッチ操作などで空調も調節できるようにしながら、従来型のスイッチも併用することが行われるなど、ダッシュボードからセンターコンソールにかけて場所の取り合いとなった。
なおかつその問題は、人の目に触れる表面的なことだけでなく、内側に装置をいかに車載するかという、空間の取り合いにもなった。その際に、変速を機械的なつながりで行うことはまず不可能となり、バイ・ワイヤー化が、こうした理由からも必要になる。
クルマの求められる機能が変化していきながら、それが上級車種だけでなく大衆的な小型車にまで波及していった時、シフトレバーである理由が限定的になっていったのは自然な流れだろう。
■シフト操作の今後
シフトレバーからシフトスイッチへという流れは、今後も続く可能性が高い。しかし一方で、単にスイッチ化すればいいというわけでもない。運転者の誤操作を起こさない方式である必要がある。
例えば、メルセデス・ベンツはシフトスイッチ化が進むなかで、ステアリングコラムにレバーを残してきた。電気自動車(EV)専門メーカーである米国のテスラも、メルセデス・ベンツと同じ部品メーカーを利用する都合上、同じようにステアリングコラムのシフトレバーを使っている。
BMW i3は、回転スイッチ式とはいえ、ステアリングコラムに操作位置を設けている。いずれも、前方視界からあまり目をそらさずに、シフト位置を確認できるところへ、レバーやスイッチを配置している。
一方で、例えばホンダレジェンドはセンターコンソールにシフトスイッチを配置しているが、DからRへ、あるいはPへというシフトをする際に、目線を下へさげなければならない。
ジャガーの回転式シフトスイッチは、シフト位置を合わせる位置が決まっており、そこへDやR、あるいはPを合わせるので、操作に勘違いが起きにくいが、同じ回転式を用いる他車ではP、D、Rなどの位置が固定で、そこへダイヤルを合わせる方式なので迷いが生じることがある。
トヨタのグリップ式シフトは、Pだけが別スイッチなので入れ忘れやすい。しかしリーフで採用した同様のグリップ式は、グリップ自体にPの操作ボタンがあるので、入れ忘れしにくい。
結論として、レバーか、グリップか、スイッチかという選択肢があり、ダッシュボードやセンターコンソールに求められる機能に応じてある方向へ集約されていくだろう。だが、運転者が操作しやすく、かつ勘違いを起こさず的確にシフトを行えることが何より肝心だ。
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