新しいVWゴルフ、アウディA3、プジョー308など、最近は欧州車でも「シフトレバー」がスイッチ式の「シフトスイッチ」へ続々と切り替わっている。
以前から日本車もハイブリッド専用車やEVに採用されていたり、「シフトノブはどこ?」と探してしまいそうな海外のスーパーカーなどがあったが、近年は世界的にシフトのスイッチ化が進んでいると言っていいだろう。
このシフトレバーがスイッチ化してきている理由は何なのか? モータージャーナリストの御堀直嗣氏が解説する。
文/御堀直嗣
写真/TOYOTA、NISSAN、HONDA、Jaguar Land Rover Japan、Mercedes-Benz
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■スイッチ化は2代目プリウスから始まった
シフトレバーから、シフトスイッチへ。その流れは、今後も進むのではないだろうか?
シフトレバーがスイッチ化した最初は、トヨタの2代目プリウスではないだろうか。その後、日産リーフも同様のグリップ部分でシフトする方式を採用した。
一方、小型車を中心にハイブリッド車であってもシフトレバーを継続使用する車種もある。ことに原価に厳しい小型車では、価格競争力の点においてエンジン車などとの部品の共通化は大きな課題だろう。
しかし、たとえば英国のジャガーなどは、エンジン車であってもダイヤル式のスイッチによるシフトが採用されてきた経緯がある。その背景には、いくつかの理由があると思う。
■シフト・バイ・ワイヤの浸透
シフトの操作にまつわる技術的な要素としては、「バイ・ワイヤ」の浸透があるはずだ。バイ・ワイヤとは、「配線による」という意味で、運転者の操作を機械的なつながりによって機器を稼働させるのではなく、操作を電気信号に変換し、それを配線によって機能部品へ伝え、そこでモーターなどを使って機器を動かす方法だ。
巨大な旅客機での操縦で利用されはじめ、クルマへも展開されるようになった。
たとえば路線バスなども、運転者が操作する変速を、かつては機械的な連結で車体後部にある変速機に伝えていたが、いまではシフトレバーはスイッチ化され、車体後部の変速機は配線で送られてきた信号に従って稼働している。
なので、力もコツも必要なく、非力な運転者でも造作なく変速操作ができる。
乗用車も、アクセル操作のほとんどはバイ・ワイヤによる。ブレーキも同様だ。それによって、アクセルでは運転者が無駄なペダル操作をしても燃費を悪化させないようコンピュータで演算し、走行に必要な燃料をエンジンに供給する。
ブレーキでは、ペダル操作をしていなくても、各車輪個別に制動力を働かせ、姿勢安定制御を行えるのも、ブレーキペダルと各車輪のブレーキキャリパーが直接つながっていないからできる機能だ。
前置きが長くなったが、そのように現代のクルマにはバイ・ワイヤがさまざまに利用されており、それがシフト操作でも使われていれば、運転者の意思は、レバーでなくスイッチでも差し支えないことになる。
そのうえで、マニュアルシフト感覚で変速したい場合には、ハンドルの裏にあるパドルスイッチを使えば可能になる。かつて、F1の運転操作のように行えるパドルスイッチは、スポーツカーやGTカーなど高性能車の憧れの装備だった。
そののち、高性能かつ高級な乗用車でも採用されるようになり、今日では小型車などでも採り入れられるようになった。したがって変速を自分の意志で行いたい人は、パドルスイッチを使えばよくなり、わざわざシフトレバーを残す理由は薄れている。
また、マニュアル操作で変速する際も、シフトレバーを操作することで片手ハンドルになるより、パドルスイッチを利用すればハンドルを両手で握ったまま操作できる。安全運転上も、ハンドルはできるだけ両手で握れていたほうがよいので、シフトレバーを残す意味が薄れているといえるだろう。
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