車のカタログには、その性能を示すさまざまな数値が記されている。いわゆる馬力(=最高出力)や燃費もその代表例で、皆さんも車選びの参考にしているのではないだろうか。しかし、「A車とB車のカタログ燃費は同じだけれど、実走行ではA車のほうが燃費が良い」といったように、カタログのスペックでは測れない部分が、車の良し悪しを大きく左右する。単に「カタログ上のデータが優れているから良い車」とはならないのがクルマの面白いところだ。
文:松田秀士/写真:編集部
「最高出力」以上にパワー感のある車

■VW up! GTI
・最高出力:116ps/5000-5500rpm
・最大トルク:20.4kgm/2000-3500rpm
■ミニ クーパー
・最高出力:136ps/4500rpm
・最大トルク:22.4kgm/1480-4100rpm
up! GTIのエンジンはたった1Lの3気筒ターボ。そのパフォーマンスはというと、116ps/5000~5500rpm、200Nm/2000~3500rpm、トランスミッションはMTだ。
で、比較対象にしてみたのが最近マイナーチェンジでトランスミッションにDCTなどを投入したミニ。
実はミニクーパーには同じ3気筒ターボでも1.5Lのエンジンが採用されている(ミニONEは同じエンジンでぐっと出力が抑えられている)。そのパフォーマンスは136ps/4500rpm、220Nm/1480~4100rpmというスペックだ。
この2車を比較すると、エッ! これ4気筒じゃないの? というくらいにスムーズでパワフルなのがミニクーパーの方。
up! GTIは3気筒っぽい不等爆なガサツさを感じさせるのだが、そのガサツさゆえか、低回転から高回転域まで満遍なく力強いのだ。
ここで最大トルクと最大出力(馬力)について説明しておくと、最大出力は最大トルク×エンジン回転数という計算上から割り出されるもの。そのエンジンが何回転までトルクを保ったまま、回転数を上げられるか? ということ。
この分水嶺となる回転数はおおよそ7000rpm。この回転数以上を回すためには、カムやバルブを含め特殊な技術が必要になる。つまり、7000回転以上回せるエンジンは、真の意味で高回転型ということになる。
で、話を戻すと116psのup! GTIの最大出力発生回転数は5000~5500。おそらく5000rpmを超えるとトルクダウンが始まるものと思われる。
ミニクーパーは136psを4500rpmで発生する。その差500回転。なんとなくおわかりだろうか? おそらくあと500回転回すことができたら、ミニクーパーはかなりパワフルに感じたに違いない。それだけ低回転トルク型に設計したエンジンなのだ。
最大トルクの発生回転数をみてもup! GTIが2000~3500rpmで200Nmを発生しているのに対して、ミニクーパーは220Nmを1480~4100rpmで発生。
プラス500ccの1.5Lゆえに、より低回転でトルクを発生させ、全体に低中速域にフォーカスしたエンジン特性としていることが、このデータから伺えるのだ。だから、高回転域までスロットルを踏み込むとスペック値以上にup! GTIがパワフルに感じるわけ。
もちろん、up! GTIはMT。片やツインクラッチのDCTゆえ重量的にも1240㎏のMINI Cooperに対して、up!GTIはわずか1000㎏の車重というように、一概にエンジンフィールだけでパワフルと判断するのも浅はかというもの。
このように考えると、スペック値以上にパワフルと感じることへの謎が解けるというものだ。
「最大トルク」以上にトルク感のある車

■プジョー 308アリュール ブルーHDi(1.6L DE)
・最大トルク:30.6kgm(300Nm)/1750rpm
■プジョー 308 GT ブルーHDi(2L DE)
・最大トルク:40.8kgm(400Nm)/2000rpm
今度は、前記した最大出力のトルク版。
ちょうどプジョー308のクリーンディーゼルエンジンに1.6Lと2Lがあり、もちろんトルク・出力共に2Lが優るのだが、1.6Lのトルク発生回転数は2Lに比べて250回転低い1750回転で300Nmを発生。
では、2Lモデルはというと2000回転で400Nmを発生している。2Lエンジンの1750回転時のトルク値はわからないが、トルクは低回転で発生していればいるほどにトルクフィールを感じるもの。
その証拠にゼロ回転時から最大トルクを発生させることのできるEV(電気自動車)は、アクセルを踏み込めばいきなり強烈なトルクで加速するので、どの内燃機関もかなわない。
だから、308の1.6Lディーゼルは排気量&スペック値からイメージするよりもトルク感があるわけです。
「車重」以上に軽快感のある車
・日産 リーフ/車重:1520kg(G)
・参考)マツダ アクセラ/車重:1360kg(15XD)
・参考)スバル インプレッサスポーツ/1320kg(2.0i-Lアイサイト、FF)
車両重量のイメージ以上に軽快なのはEVの日産リーフだろう。バッテリーだけで200kgをはるかに超える。そのため車重は1520㎏(Gグレード)。
しかし、EVのモーター特性としてゼロ回転時から最大トルクを発生するので発進時からアクセルレスポンスも機敏。
バッテリーを床下にマウントしているから低重心となり、車体の重心高が大幅に下がるので運動性能にもポジティブ。よって軽快感が高く気持ちの良いハンドリングとなるのだ。
カタログ燃費以上に実燃費が良い車

これは様々な広報車両を借り、ほぼ毎日乗り回している筆者の経験からいうとボルボの新しいXC40だ。
2Lターボで普通のドライビングでカタログ値12.4km/Lを大幅に上回る14.0km/L台を記録したのだ。これにはかなり驚いた。
高速道路走行が80%を占めていたが、河口湖方面に向かういわゆる上り坂が多いシチュエーションも含む道路状況での数値。かなり効率の良いSUVといえるだろう。
安価なサスペンション形式でもハンドリングが良い車
トーションビーム式は左右の車軸が1本のビームで繋がったものだ。これに対して左右が分離した独立懸架式がある。
一般的に独立懸架が良いといわれているけれども、トーションビームにもメリットはある。
ロールした時にコーナリング外側のタイヤがネガティブ、内側のタイヤがポジティブにキャンバー変化するので、両輪のタイヤのトレッド面をしっかりと路面に接地させることができ、グリップも上がるのだ。
また、部品点数が少ないから安上がり。デメリットは左右が繋がっているからサスペンションの自由度が制限され、乗り心地も悪くなる。
だから、ハンドリングが一概に悪いとは言えないのだが、それでも走り終わってスペックを見たり床下を覗いたりして、「えっ! これトーションビームだったんだ!」と驚かされることもある。
その車は、先代シビック・タイプR。そう、フランスの某メーカーの持つニュルFF最速記録を破ったあのクルマなのです。
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