■なんと30年前に登場していた水素ロータリー
91年の第29回東京モーターショーにマツダが参考出品したのが「HR-X」だ。クリーンでエコを追求したコンセプトカーで、水素燃料と相性のいいロータリーエンジン(RE)を搭載している。心臓は次世代の2ローターREで、これに電気モーターを組み合わせた。
加速するときはモーターがエンジンをアシストし、減速時には運動エネルギーを電気に変える回生を行うのだ。航続距離は200kmと短いが、21世紀に期待を抱かせる提案だった。93年のショーには、これを発展させた「HR-X2」をターンテーブルに載せている。
ビストンの上下運動ではなく回転運動でエネルギーを生み出すREは、吸気、圧縮、爆発の行程を違う場所で行う。だから暖まりにくいのが弱点だった。が、水素を燃料にしたときはレシプロエンジンのように異常燃焼に悩まされることがない。
水素ならではの着火性のよさを活かせるのもREの特徴なのである。エンジンを使うなら水素の純度もFCVほど高くなくていい。これも魅力だ。
■水素とガソリンの二刀流で弱点を克服
その後、マツダは鳴りを潜めていた。それは水素を燃料にすると環境性能を高めることはできるが、航続距離は短かったためである。ガソリンを使ったエンジンと比べると、パフォーマンスも物足りなく感じた。
だが、21世紀になってマツダは、長距離移動や水素燃料の供給ステーションがない地域まで行った時でも高い利便性を発揮する方法を見つけている。それが「デュアルフューエルシステム」だ。その第1弾がRX-8をベースにした「ハイドロジェンRE」である。
メカニズムの売りは、水素とガソリンの両方を使えるデュアルフューエルシステムを採用していることだ。水素燃料が切れたときは、ガソリン燃料に自動的に切り替え、航続距離を伸ばすことができる。
ちなみに水素だけを使っての航続距離は100kmだった。水素タンクは水素ステーションの標準的な圧力である35Mpaに対応したタイプで、2本の水素タンクをトランクに押し込んだ。そのため4人が乗ることができる。
REならではの軽やかな加速フィールと充実したトルクを期待したが、水素を燃料にして走るとパンチがない。発生エネルギーがガソリンの半分程度だから加速は緩慢だ。CO2はゼロ、NOxもほとんど発生しないなど、メリットは多いが、物足りなく感じた。
ガソリン燃焼モードに切り替えると気持ちいいエンジン音を発しながら軽快な加速を見せ、その差に驚かされたものである。このRX-8ハイドロジェンREは、2006年に公官庁や企業向けにリース販売を開始した。
■水素とガソリン、さらにハイブリッドを加えた三位一体!!
これに続いて発表したのが「プレマシー・ハイドロジェンREハイブリッド」と「プレマシー・ハイドロジェンREレンジエクステンダーEV」だ。
前作と同じようにデュアルフューエルシステムを採用しながら、新たにハイブリッドシステムを追加して動力性能と実用性を大幅に向上させた。RX-8ハイドロジェンREと比べると駆動ユニットの出力は40%ほど高められている。
心臓となる水素REは縦置きから横置きレイアウトに変更され、給気と排気抵抗の低減や燃焼改善を行った。また、水素の燃焼エネルギーを効率よく電気エネルギーに変換し、モーターを駆動するハイブリッドシステムを追加している。
この結果、高いエネルギー効率と優れた応答レスポンスを実現し、幅広い領域で高出力を実現しているから加速も力強い。ダイレクト感のある気持ちいい加速に加え、燃費性能も向上した。水素を燃料にしたときの航続距離は200kmと、前作の2倍だ。
ミニバンのプレマシーをベースにしているからキャビンは広く、ハイブリッドシステムや水素タンクを搭載しても5名乗車を可能にしている。この「プレマシー・ハイドロジェンREハイブリッド」は、2009年に公官庁や企業にリース販売され、好評を博した。
また、これをプラグイン化し、大容量化した高電圧バッテリーを搭載したのが「プレマシー・ハイドロジェンREレンジエクステンダーEV」だ。ガソリンを使わない究極のゼロエミッションビークルだった。
マツダの人たちは、内燃機関のREに新しい発想と新しい技術を盛り込めば、21世紀に必要とされるクルマの環境性能と安全性能を向上させながら、持続可能(サスティナブル)な未来を実現できるだろうと考えた。
その回答の一つが水素ロータリーだ。部品が多くなるためスペース的に苦しいし、重量もかさむ。当然、生産コストを下げるのも大変である。実用化への壁は高いが、RE党のためにも難問を克服して市販に結びつけてほしい。
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