■お膳立ては整っていたものの…
政府主導による本格的な自動運転技術の開発動向は8年前の2013年8月に内閣府による概算要求まで遡ります。そして2014年度よりスタートした政府によるSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)により、産官学が連携した自動運転技術の開発が正式に始まったのです。
当初10項目をテーマとして予算が策定され、そのテーマのひとつとして「自動運転」が採用されました。総責任者でプログラムダイレクターの葛巻清吾氏のもと、これまで技術開発促進の旗振りとして「SIP自動運転」はその役割を務めてきました。
SIP自動運転第二期では、「システムとサービスの拡張」というサブタイトルのもと、4つの計画が掲げられました。
(1)証実験企画・推進
(2)技術開発
(3)社会的受容性の醸成
(4)国際連携
(1)実証実験企画・推進においては、前述の通り2020年7月に東京お台場地区において大々的な試乗イベントが行われるはずでした。しかし、コロナ禍により延期となったため、規模と内容を改めて「自動運転ショーケース」として2021年4月にお台場地区にて開催されています。
その様子は当連載の第11回でも詳細をレポートしていますが、商用に特化した小型バスやタクシーなど、いわゆるMaaS(Mobility as a Service/サービスとしての移動体)領域での発表が主体でした。
【自律自動運転の未来 第11回】バスやタクシーはいつどう変わる? 公共交通機関と自動運転
2022年の到達目標では、東京臨海部での実用段階としてインフラ実装を行いつつ、首都高速道路での合流支援システムの実用化や、次世代都市交通システムである「ART」の地方展開、さらにはMaaSでのさらなる実用化を目指します。
(2)技術開発においては、電子地図、信号情報、車両プローブ情報、サイバーセキュリティ、HMI、通信技術が研究の主たるテーマです。2022年の到達目標では、研究テーマごとに実用化が促進できる項目を精査しつつ、技術の業界標準化を目指します。
(3)社会的受容性の醸成においては、国民への情報発信や理解の促進、経済的な影響も精査、視野障害をもつ方への高度運転支援が主たるテーマです。2022年の到達目標では、研究テーマごとのロードマップ作成と制度整備を目指します。
(4)国際連携においては、SIP-adus WSとして自動運転技術にまつわる海外との共同研究が主たるテーマです。2022年の到達目標では、国際標準化とともに、長期的な視野に立った産官学連携組織の設立を目指します。
コロナ禍とはいえ、ここまでお膳立てが整った日本の自動運転技術。
その開発分野について、東京オリパラを背景にしたトヨタの取り組みを例に紹介します。
■競技を支えるサポート車両たち
トヨタは今大会に約3,500台の車両を提供し、そのうち電動車(電気自動車や燃料電池車、ハイブリッド車を含む電動パワートレーン搭載車)は90%に及びます。
当然、自動運転技術を搭載した車両も数多く存在します。
トヨタ初のMaaS専用車両「e-Palette」では、選手送迎用に特化した「東京2020仕様」のe-Paletteを20台弱用意して、選手村のなかを自動走行(係員同乗のレベル4相当)しながら巡回します。
さらに、このe-Paletteのデザインをモチーフにした小型(全長105㎝、全幅50㎝、全高73㎝)の「FSR」(Field Support Robot/フィールド競技サポートロボット)が競技中のスタジアム内を高度な自律走行(自らの行動を律しながら走行)を行ないながら、たとえば選手が競技で使った槍やハンマーなどを自動的に回収します。競技中、せっせと回収作業を行なうFSRの愛らしい姿がテレビやネットを通じて見られるかもしれません。
さらに自動運転機能はありませんが、電動化車両として約200台の「APM」(Accessible People Mover/6人乗りの輸送車両)が活躍。このAPMには選手の救護を目的としたストレッチャーが搭載できる「レスキューモデル」も用意されます。
また歩行領域の電動モビリティで、立ったまま乗車し走行できる3輪車(名称未定)や、生活支援ロボット「HSR」( Human Support Robot)、物品運搬ロボットの「DSR」(Delivery Support Robot)なども電動化車両として東京オリパラを支えます。
会場周辺の公道では、プラグインハイブリッド車である「プリウスPHV」や燃料電池車両「MIRAI」のほか、MIRAIのFCスタックなどを2つ搭載した大型バス「SORA」や、二輪車のように車体を傾けて走行するパーソナルモビリティ「i-ROAD」が走ります。
コメント
コメントの使い方