去る2021年7月6日、クロアチアの新興EVメーカーであるリマックとポルシェの合弁会社が、スーパーカーブランドのブガッティを運営することが明らかになった。
伝説のスポーツカーメーカーとも言われ、1998年以降はフォルクスワーゲン傘下で超高級スーパーカーを生産してきたブガッティはこの先どうなるのか? そしてEVメーカーのリマックとは? スーパーカー評論家でもあるモータージャーナリストの西川淳氏が解説する。
文/西川淳
写真/BUGATTI
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■モータースポーツの黎明期に活躍した名門
目の前をブガッティタイプ44コルシカが走っている。濃いめにペイントされたブルーの車体がすでに荘厳だ。コーナーが迫るたび、ドライバーは大きなステアリングホイールをねじ伏せるように回す。まるで格闘しているかのよう。
ストレート8のエンジン音は至ってジェントルで、私たちが乗っている1970年代BMWの4気筒エンジンの唸り声に時折、かき消されていた。
さらにその前には同じくツアラーの4気筒モデル、タイプ40が走っていて……。
この原稿執筆の直前に北海道で行われたクラシックカーのドライブラリー「トロフェオ・タツィオ・ヌボラーリ」に参戦した。そこでなんと戦前のブガッティが3台も走っていたのだ。1.5L 4気筒のタイプ40が2台に、3L 8気筒のタイプ44が1台。いずれもマニア垂涎のヴィンテージ・ツアラーだ。
イタリア生まれのエットーレ・ブガッティが自らの名を冠した高級車メーカーをフランスはアルザス地方で立ち上げたのは1909年のことだった。エットーレの生み出すツアラーは気品に満ち、洗練された装いで、しかも力強かった。
けれども彼らのクルマを一躍有名にしたのは自動車の発明と同時に始まったモータースポーツにおいて活躍したグランプリカーで、フランス代表であるブガッティはイタリアのアルファロメオやドイツのメルセデスと死闘を演じている。
ブガッティのグランプリカー、タイプ35シリーズなどはヴィンテージカー界の頂点に君臨する名モデルであり、今では数億円で取引されている。もっともツアラー、GPカー合わせてブガッティの最高峰はタイプ57クーペアトランティークSCで生産台数わずかに4台。ミュージアムのほか、ポロ・ラルフローレンなどが所有している。
エットーレ自身が愛用した黒い個体(ラ・ボワチュール・ノワール)は第二次世界大戦中に行方不明となっており、もし発見されたなら(残骸からのレストレーションでもいい)、百億円以上で取引される可能性があるという。
戦後、自動車の大衆化が始まると、次第に高級車ブランドの行き場は狭まり、ブガッティもあえなく活動を停止した。1980年代後半にイタリアの実業家によって一度は復活したものの、EB110というスーパースポーツを世に送り出したのみで、程なく再びの眠りについてしまった。
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