■軽商用バンでは、電池の搭載量を少なくし、低コストなモデルの開発が進む
もうひとつは、佐川急便が購入を予定する中国生産の軽商用EVや、米国製品をもとにしたHWエレクトロのような、軽商用EVから手を付ける段取りである。
ラストワンマイルといわれる軽商用バンでの配達は、一日の走行距離の目安が付けやすい。たとえば100kmで足りるなら、それに必要なだけのバッテリー容量を計算すればいい。
長距離移動が必要なときは、途中で急速充電すればいいだけだ。容量の少ないバッテリーであれば、短時間で80%近い充電を済ませられる。急速充電は、30分待たなければいけないわけではない。バッテリー容量に応じて、あるいは目的地への距離によって、必要な分だけ短時間で充電すればいい。
HWエレクトロの蕭(ショウ)社長は、軽商用EVの採算分岐点は、「1kmで1万円」ではないかと述べている。100kmの一充電走行距離が必要なら、100万円となる。
これは、ミニキャブMiEVを持つ三菱のガソリンエンジン車のミニキャブでもっとも安い98.67万円(5MT)に近い金額だ。一般社団法人日本物流団体連合会によれば、約50kmでも活用できるとの話もある。そうなれば、もっと安くすることも視野に入る。
そのうえで、EVの電気代はガソリン代の半分以下になる。ミニキャブバン(5AMT)とミニキャブMiEVの比較で、1km走行するのにかかる燃料代は、ガソリン(1L:150円)が7.73円、電気代(1kWh:30円)が3.81円と試算でき、半分以下だ。
またオイル交換は不要で、ブレーキパッドも回生を使った運転をすればほとんど交換せずに済むのではないか。軽商用EVは運航経費が安く上がるだろう。
軽商用EVを手始めに、バッテリー搭載量と、確実性の高い販売台数が決まれば、リチウムイオンバッテリー購買の基礎が固まる。
そこから乗用の軽EVを考えたとき、「1kmで1万円」が成り立てば、200万円前後の車両価格と仮定した場合、一充電走行距離を伸ばすほう、あるいは装備の充実などに原価を充てることが考えられる。
■街乗りと用途を限定し、機能を厳選すれば価格を抑えた軽EVが登場可能だ
装備面では、空調の学会で車内の空気を冷暖房するエネルギー消費の無駄を検討しており、暖房については、既存のEVでもシートヒーターやハンドルヒーターといった体を直接温める方法が広がりつつある。エアコンディショナーに比べ10分の1の電力消費で済むからだ。
また小型車を中心に、室内の天井にエアサーキュレーターを取り付ける動きがあり、これとエアコンディショナーを連携させると、室内温度を効率よく調節できる。
限られた電力でいかに快適性を確保し、省電力にできるかは、単に動力の効率化だけでなく、一台のクルマの商品性を高めながらEV化を実現する新たな開発の仕方となる。ゼロからの新車開発の挑戦として、軽EVは最適な素材だ。
既存の軽乗用車も、ターボ車となれば200万円を超える車種がある。購入後の電気代や整備費の安さを視野に入れながら、200万円プラスαが軽の乗用EVに興味を抱かせる上限ではないか。
なお、来年登場予定の日産と三菱のNMKVによる軽EVは、実質購入価格は約200万円からとなる見込みだとしている。
付け加えると、スズキの初代アルトがボンネットバンとして47万円で売り出したように、営業車用や通勤用としてボンネットバンのEVを格安で用意できれば売れるのではないか。EVなら、廉価仕様でも充分快適で、動力性能も高いはずだ。
車載バッテリー量と、あるべき軽EVの姿や標準装備を具体的に起草できるかが成否の分かれ目になる。既存のエンジン車にとらわれたり、頭(机上)で考えたりするだけでは、前へ進めない。
具体的に検討できるのは、開発が最終段階に入っているであろう日産や三菱、そしてホンダeという現物を持つホンダではないか。他社は、リチウムイオンバッテリーの購買が何より難題だろう。