■カリーナ後継のアリオンも消滅…生き残ったセダンが今消えゆく理由
一世を風靡した――とまでは言えないのかもしれませんが、少なくとも「足のいいやつ」「きまってるね、千葉ちゃん!」などのフレーズとともに、昭和の人々の心には深く突き刺さった存在であるトヨタ カリーナが、廃番となった理由。
それはもういわゆる「世の中セダン離れ」に尽きるわけで、そこについては特に付け加えることはありません。
問題は、というかここで議題としたいのは、「ではなぜセダンは売れなくなったのか?」ということです。
これについても議論し尽くされた感はあります。
主だった見解は「1990年以降(つまり平成に入って以降)、ユーザーは車の走り云々よりも実用性や空間効率を重視するようになったため、箱型の車以外はあまり売れない時代になったから」という感じでしょうか。
これについても特に異存はなく、「まぁそうなんでしょうね」以外の感想はありません。
そのうえで筆者が付け加えたいのは、「セダンとは“ヘアリキッド”のようなものではないか?」という仮説です。
お若い方はご存じないかもしれませんが、昔は「ヘアリキッド」という液状の整髪油がありました。
「ありました」というか今でもあって、男性用化粧品売り場の片隅で地味に、しかし確実に、陳列され続けています。
1970年頃に生まれた筆者はさすがに「バイタリス」や「資生堂ブラバス」などのヘアリキッドで髪をビタッと7:3分けにする習慣は昔も今もありません。
しかし筆者の父親世代、つまり現在70代から80代ぐらいの男性の多くは、若い頃から習慣としてバイタリスなどのヘアリキッドを使っていました。
そして2021年の今も、彼らの家の化粧台には懐かしの「資生堂ブラバス」や「バイタリス」がフルセットで置かれてます。
現在、男性用化粧品売場の片隅に陳列されているヘアリキッドは、主には70代から80代の男性によって購入されているのでしょう。彼らは、今流行りの「新感覚ヘアワックス」みたいなモノは基本的に使いません。
……何が言いたいかというと、「若い頃に獲得した習慣は嗜好は、年を重ねても継続される」ということです。
今や完全に人気薄な整髪料となったヘアリキッドも、若い頃にそれを使うことを覚えた彼らにとっては「バリバリの現役」なのです。ヘアムースが登場しようが、ワックスが流行ろうが、関係ないのです。
セダンとは、おそらくこれと同じです。
日本の乗用車保有台数が急激に増えた昭和40年代から50年代頃に20代から40代ぐらいだった人、つまり今現在60代から80代ぐらいの人にとっては、「整髪料といえばヘアリキッド」というのと同じ感覚で「車といえばセダン」でした。
それゆえ、世の中にRVブームが来ようがミニバンブームが到来しようが、あるいは現在のようなSUV旋風が巻き起ころうが、彼らによって「セダン」は買われ続けました。
男性用化粧品店の片隅で、ヘアリキッドやヘアトニックが少数ながら確実に売れ続けるように。
しかし車というのはヘアリキッドと違って安くても100万円以上はしますから、そう簡単に買い替えたり、買い足したりされることはありません。
そして年齢を重ねることで必然的に購買力が落ちてくれば、「そもそも買えない」という事態も発生しやすくなります。
そうであるからこそ、カリーナ(アリオン)に限らず、細々と命をつないでいた「5ナンバーサイズのセダン」はこのところ、相次いで生産終了となったのです。
もちろん、だからといってセダンというものの命脈が完全に途絶えることもないでしょう。お元気な年配の方も多いですし、セダンというフォーマルなスタイルを好む若年層も、少数ですが確実に存在しているからです。
そういえばヘアリキッドも、おそらくは絶滅することはないでしょう。
最近のお若い人でも髪型をスカッと横分けにしたり、おしゃれでトラディショナルなオールバックを好む人は一部にいて、そういった若秀には、今もヘアリキッドは愛用されているのです。バイタリスや資生堂ブラバスではないかもしれませんが。
■トヨタ カリーナ(初代)主要諸元
・全長×全幅×全高:4135mm×1570mm×1385mm
・ホイールベース:2425mm
・車重:945kg
・エンジン:直列4気筒DOHC、1588cc
・最高出力:115ps/6400rpm
・最大トルク:14.5kgm/5200rpm
・燃費:―
・価格:81万8000円(1971年式 1600GT)
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