MTは滅ぶしかないのか!? 先進安全装備と「マニュアル車」の相性がよくない事情

MTは滅ぶしかないのか!? 先進安全装備と「マニュアル車」の相性がよくない事情

 最近では標準装備が当たり前になってきている衝突被害軽減ブレーキ。しかし、7月に正式発表されたスバル新型BRZはニューモデルでありながら、マニュアルトランスミッション(MT)車のほうには衝突被害軽減ブレーキであるアイサイトの設定はない……。

 トヨタのカローラスポーツなど、他メーカーではMT車でも衝突被害軽減ブレーキが用意されている車種がある。そんななかで、BRZは新型車でも自動ブレーキを採用しないということは、アイサイトをはじめとした先進安全装備とMT車は何か相性がよくない理由があるということなのか?

 衝突被害軽減ブレーキがMT車には採用されないケースがある事情について、カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説する。

文/渡辺陽一郎
写真/スバル、ベストカー編集部

【画像ギャラリー】6速MT車にも先進安全装備は必要!! 自動ブレーキを装備した日本のMT車を写真でチェック!!


■6速AT車に装備されるアイサイトだが6速MT車には設定なし

 2021年7月に、新型BRZの概要が明らかになった。新型の注目点として、衝突被害軽減ブレーキを作動できるアイサイトコアテクノロジーの採用が挙げられるが、装着しているのは6速ATのみだ。6速MTについては、新型でもアイサイトを装着できない。

7月29日発表された新型BRZは、AT車にはアイサイトが標準装備されたが、6速MTには自動ブレーキも装備されていない

 スバルでは従来型のWRX STI、あるいは先代フォレスターなどにも6速MTを用意したが、アイサイトは装着されなかった。

 スバルは2個のカメラセンサーを備えるアイサイトを2008年から採用しており、衝突被害軽減ブレーキの分野では長い実績がある。それなのに6速MTに用意されない理由は何か。開発者に尋ねると、以下のように返答された。

 「アイサイトの装着には、各車両に合わせた綿密な開発とセッティングが必要だ。そしてアイサイトを実用化した後のスバル車では、AT(CVT)車の販売台数が圧倒的に多い。6速MTは一部の車種に限られるから、アイサイトはAT専用になっている」。

 つまりアイサイトの装着には、車両との連携を保つために開発の手間が掛かり、販売台数の少ない6速MTは後まわしになっているわけだ。

 しかしBRZはスポーツカーだから、6速MTの販売比率が多い。先代BRZでは、国内販売総数の70%以上が6速MTであった。BRZについては「6速MTを搭載するのは一部の仕様だから、アイサイトをAT専用にした」とはいえない。

新型BRZのAT車には歩行者などにも対応する最新のアイサイトを搭載。これによりプリクラッシュブレーキと全車速追従機能付クルーズコントロールを備える

 また衝突被害軽減ブレーキは、人の命や健康に影響を与える安全装備だから、根本的な開発姿勢としてすべての車種に装着すべきだ。販売台数が少ないとか、MT車のユーザーは運転が上手だから不要といった考え方は成り立たない。

■スバルがMT車に衝突被害軽減ブレーキを採用しない理由はエンスト?

 スバルが6速MTにアイサイトを採用しない背景には、別の理由もあるのではないか。

 この点も尋ねると、6速MTの場合、衝突被害軽減ブレーキの作動でエンジンが停止する課題もあるようだ。

 例えば5速や6速などの高いギヤで走行中、衝突被害軽減ブレーキが作動したとする。エンジン回転数は1500~2000回転まで下がっているから、この状態で強制的にブレーキを作動させると、ドライバーがクラッチペダルを踏まなければ、あるいは踏むタイミングが遅ければ、エンジンが停止する可能性もある。

 ATなら衝突被害軽減ブレーキを作動させてもエンジンは停止しないが、MTではその心配も生じる。

写真はAT車の内装だが、スバルはMT車での衝突被害軽減ブレーキ作動時にエンジンが停止する可能性を危惧して装備を躊躇しているのかもしれない

 エンジンが停止した状態で、ブレーキペダルを数回にわたって作動させると、次第に真空倍力装置が正常に作動しなくなって制動力も下がってしまう。パワーステアリングの機能によっては、作動が停止して、操舵力が極端に重くなる。

 スバルはさまざまな危険性を考慮するので、衝突被害軽減ブレーキの作動に伴うMT特有の弊害を懸念して、装着に対して慎重になっていることも考えられる。

 しかしMTに衝突被害軽減ブレーキを装着したことによるメリットとデメリットを比較すれば、メリットが勝る。弊害についていえば、衝突被害軽減ブレーキが作動すると、衝突の被害軽減や回避が行われると同時に走行速度も一気に下がる。真空倍力装置の性能が低下しても、大半の場合は停車が可能だ。

 またMT車のユーザーであれば、衝突被害軽減ブレーキが作動して速度が下がると、反射的にクラッチペダルを踏むだろう。MT車では、各ギヤが受け持つ速度域と、エンジン回転数の関係を無意識に把握しながら運転しているからだ。

 通常の走行でも、ブレーキを強めに作動させて速度が大きく下がると、その度合いに応じてドライバーはクラッチペダルを自然に踏む。エンジンストップのミスは生じにくい。

 衝突被害軽減ブレーキと親和性の高いトランスミッションは、車両側が作動を綿密に制御できるATではあるが、MTの装着を否定するものではない。

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