クルマにはクルマごとの特徴があり、それぞれ走りのクセも存在する。しかしポルシェ911ほど走りに特徴があって、同時に多くの人から愛されるクルマも珍しいのではないだろうか。
今回は、993型のポルシェ911を約20年所有してきたライターの柳川洋氏が、過去に経験した愛車でのスピンから学んだ、“ポルシェ乗りのための注意点”について紹介していこう。
文/柳川洋 写真/柳川洋、ポルシェジャパン
【画像ギャラリー】ポルシェ乗りなら絶対知っておくべき鉄則とは?
■ポルシェでやらかしたスピン事件
突然ですが、あなたは公道を走っていてスピンした経験はありますか? 筆者はあります。それも妻を隣に乗せた空冷ポルシェで───。
約20年前のこと。1996年式993カレラ4S(4年落ち、走行8000km超)を購入した数か月後に、当時、結婚したばかりの妻を乗せ、交通量の少ない朝の芦ノ湖スカイラインを快調にドライブしていた。前方には足まわりを固めたマツダ ロードスターが3台走っていて、どのコーナーも安定してクリアしていく。
後ろから眺めていて楽しい光景である。こちらは妻を乗せていることもあり、単純に前のクルマたちに付いて走っていたつもりだった。しかしそのまま追走していたら、突然、右コーナーでリアタイヤが滑った!
焦ってカウンターを当てながらアクセル戻す。すると今度は、目の前にアウト側のガードレールが近づいてきた。慌てて反対側にステアリング切ったところ、切りすぎてそのままスピン。反対車線で逆方向を向いたが、何かにぶつかることなく無事に止まった。対向車も来ておらず、まったく幸運だったとしか言いようがない。
筆者の運転のヘタさに加え、新車時装着の4年落ちタイヤがそのままになっていたというのも原因だった。「4年経つけどまだ1万kmいかないから大丈夫だろう」と、たかをくくっていたのだ。身分不相応なクルマを買ったばかりだったので、1セット20万円を超えるタイヤを新調するのが後回しになっていた。
「たぶん大丈夫だろう」というありがちな希望的観測のせいで、大枚はたいて買ったばかりのクルマを、下手したら廃車にしていたところだった。
■ポルシェ乗りなら知っておくべき2つのポイント
この「ヒヤリ・ハット」経験を通じて、ポルシェに乗るなら覚えておくべきことを2つ学んだ。まず、クルマで最も重量のあるエンジンが、後輪のさらに後ろに搭載されているという、ポルシェカレラの特殊なレイアウトについて。後輪が滑ってもアクセルさえ踏みこめばリアに再び荷重が戻って車体を安定させることができる、というセオリーは頭ではわかっていた。
だが実際、これまでの人生で一番高い金額を支払って買ったばかりの愛車で、その選択ができなかった小心者のワタクシ。電子制御などないリアヘビーな空冷ポルシェの特性を思い知らされ、コーナリングで挙動が乱れた時には、少なくとも急なアクセルオフや大きなステアリング操作をしてはいけないということを学んだ。これが1つ目の教訓だ。
そしてもうひとつの教訓は、タイヤをケチらないほうがいいということ。タイヤのゴムは、時間の経過とともに酸化したり紫外線を浴びて硬化し、グリップを失う。特に屋外駐車での紫外線のダメージは想像以上に大きい。走行距離が少なく、山が残っているからといって安心していいわけではないのだ。
特にポルシェというクルマは、加速時にリアタイヤを酷使することによってトラクションを稼いでいるので、タイヤ交換の目安は通常1年、1万km程度とも言われている。ポルシェを買う人は、毎年タイヤ代に20万円使うくらいの覚悟があってもいいかもしれない。この一件の後、次の休日に筆者がすぐにタイヤ屋に駆け込んだのはいうまでもない。
これはポルシェ以外のクルマにも言えることだが、自分がいつタイヤ交換したか思い出せない人は、運転前にタイヤウォールに刻印された製造年と製造週を確認しておくべきだ。そしてタイヤ購入の際は、念のためそのタイヤがいつ製造されたのか確認しておくこと。さらに、低走行距離で年式が古めの中古車を購入する人も、納車の際にタイヤを新品に替えておくことを強くオススメしたい。
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