レクサス高輪で発覚した不正車検問題。7月20日の第一報から約2か月が経過し、指定整備業務の取消、検査員4名の解任という、非常に重い行政処分が下されている。
時間管理や人員の不足等が、今回の不正を招いたとトヨタは説明しているが、果たして原因はそれだけなのだろうか。
なぜ、このような不正が起こったか、疑問に思う読者も多いと思う。そこで本稿では、トヨタ・レクサス両店での実務経験がある筆者が、不正車検の原因と実態を解説していく。
文/佐々木亘 メイン写真/Tobias Arhelger-stock.adobe.com、写真/LEXUS
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短時間車検そのものが諸悪の根源ではない
不正車検問題を取り上げると、スーパークイック車検(SQ車検)に代表される、短時間車検が問題点のように扱われるが、SQ車検自体は良くできた仕組みだった。
数日かかっていた検査・整備業務が、わずか90分で終わる。ユーザー、販売店ともに、時間を有効に使用でき、効率化されたこの仕組みは、多くのメリットを生み出した。
トヨタは「決められた時間内に車検を終わらせることも、目的となってしまっておりました」と不正車検の原因を釈明したが、短時間車検自体が問題ではない。
特別なシステム台車と完璧な整備マニュアルは、車検整備の革命とも言えるだろう。ただし、その運用方法や販売店の理解度に関しては、メーカーの想定と大きな乖離があったと思う。
SQ車検は理解が曖昧なままに運用すれば、整備士や検査員へ大きな負荷がかかってしまうのだ。筆者はSQ車検の誤用によって、疲弊するサービススタッフの姿を数多く見ている。
「90分車検」が妥当なのはプリウスやレクサスCT級サイズ以下
SQ車検は、同じ作業を淡々とおこなうには最適な手法だ。しかし、自動車整備にはイレギュラーがつきものである。
使用年数が長く、走行距離が多いクルマほど、イレギュラーが発生する可能性が高い。規定外の追加整備が発生すると、SQ車検の仕組みは機能不全を起こしてしまうのだ。こうなると時間内に作業を終わらせることは、ほぼ不可能だろう。
実際に多くの店舗で設定されるSQ車検時間は90分だ。まず、この時間内に作業が終わるクルマには条件があることを理解しなければならない。初度登録から5年以内(2回目の継続検査まで)で、年間走行距離が1万キロ前後というのが基本条件だ。さらにクルマの大きさは、プリウス程度までに限りたい。
クラウン、アルファード、ランクルなどの大型車では、作業時間をさらに30分増やすほうが安全だ。レクサスでは90分で作業が終わるのはCT程度であり、基本条件をクリアした上で、全車120分の時間設定が妥当だろう。
SQ車検が可能となる諸条件を充分理解をしている販売店本部や、店舗スタッフは少なく、適切な運用ができていた店舗も同様に少なく感じる。条件外のクルマが、サービス担当へ何の相談もなしに、SQ車検として予約されていることは珍しくないのだ。
特に点検時期を知らせる電話をするのは、営業マンの仕事であるから、適切なSQ車検の運用ができるよう、営業スタッフの理解を高めることが、喫緊の課題となるだろう。
また、利益を優先し、整備工場の実情にそぐわない売り上げ目標や、入庫目標なども大きな負荷だ。机上の空論ではなく、実態に即した目標値を定め、整備士の評価がいたずらに下がらないような、評価制度の工夫も必要となる。
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