■誰が(どこが)アップルカーを作るのか?
アップルカーを誰が(どこが)作るのか、秘密主義のアップルからは情報がなかなか出てこなかった。直近の最も具体的なニュースとしては、2021年1月、アップルカーの生産で韓国の現代自動車グループとパートナーシップを組むというニュースが複数の韓国メディアで報道された。
このニュースを受けて現代自動車の株価は20%近く上昇したが、その1ヶ月ほど後に「アップルとの自律走行車両の開発に関する交渉は進めていない」とパートナーシップ締結を否定する発表が現代自動車からなされた。
現時点では誰がアップルカーを実際に作るのかは明らかになっていない。一時は日産やマツダなど日本のOEMもパートナーシップの相手として噂に上がった。
アップルは当然自動車生産のノウハウをもちあわせていないが、たとえばトヨタも新車開発において「まずはハードの開発から」という姿勢から「ソフトウェアファースト」に舵を切ったように、アップルカーの開発にあたってはまずはクルマ全体ではなく自律走行システムを先に確立させることが最優先されている模様だ。
具体的には、クルマの周辺環境を知覚し障害物を感知するレーザー光を使ったセンサー類やカメラ、それらからの莫大なデータ・画像情報を瞬時に処理しクルマと周辺物の位置情報を瞬間的に補正できる超高性能なプロセッサー。
そしてその分析された情報に基づいて安全に車が走り、曲がり、止まることを可能にし、どんなところでも完全自律走行を可能にするために莫大なデータをインターネット経由で超高速に通信するためのハードウェアとソフトウェア。
既存EVと同等以上のバッテリーとそのマネジメントシステム、クルマの中での全く新しい時間の過ごし方を提供するエンターテインメントシステムなどを同時進行的に開発している模様。
こう聞くと、これまでのアップルのプロセッサー開発、センシング・通信・バッテリー技術などの蓄積がレベル5車の開発に生かされ、シナジー効果が働く部分が非常に多いことに改めて気付かされる。
完全自律走行を可能にするこのパッケージは、2012年にモデルSを発売開始しているテスラですらまだ開発できていない。ウーバーも自動運転を研究・開発していた部門を昨年事業売却した。
アップルと同様に文字通り無尽蔵といっても過言ではないだけの資金力とそれに裏付けられたリソースを持つグーグルでも、完全自律走行車ウェイモの開発チームからは直近多くの人材が流出していると言われており、このパッケージを完成させることがどれぐらい困難なことなのかを示す例には事欠かない。
現にアップルも7年間で開発責任者が4人交代しており、2016年と2019年には数百人規模でエンジニアを解雇してきた歴史もある。
既存の自動車メーカーにとっては、生き残りに絶対不可欠なEV、ゼロエミッションカー開発への巨額な投資に加えて、さらに莫大な資金と資源が必要とされる完全自律走行技術への投資を同時並行的に行うのは非常に負担が大きい。
その負担に耐えうるトヨタ、GM、VWのいわゆるグローバルビッグ3やこの分野で先行するテスラなど以外のメーカーにとって、アップルと手を組むという選択は非常に魅力的に映る可能性は高い。
だがその選択は諸刃の剣となるのかもしれない。
iPhoneの筐体やディスプレーを誰が作っているのか、中の部品はどこのメーカーが供給しているのか、われわれ消費者がほとんど興味を持たない。
また多くのタクシーの利用者がどこの自動車メーカーが自分の乗っているタクシーを作っていてどんなエンジンのスペックなのかほとんど気にしない。
それと同様に、アップルが完全自律走行システムを完成させてこれまでと全く違うモビリティサービスを提供できるようになれば、極論すれば誰がアップルカーを作るのかはある意味大した問題ではなくなってくる可能性さえある。
ほとんどの付加価値はアップルによってもたらされ、自動車メーカーは完全な下請けに近くなるかもしれない。
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