■種車(たね車)による新しいビジネスモデル
FCAジャパンにとって、今回のショー出展の最大の目的は、エンドユーザーに対するアピールよりも、業者向けの新事業の提案を優先していた。そのため、展示スペースにはほかの出展関係者の多くがデュカトの実車確認に来ていた。
発表によると、デュカト専用の販売ネットワークを国内で構築するというのだ。この販売ネットワークとは、オリジナルキャンピングカーを製造販売する車両架装を専業企業と、既存のFCAとグループPSAジャパンの正規ディーラーなどだ。
現在、FCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)と、グループPSAが融合しステランティスという企業体になっており、デュカトはステランティスの経営資源をフル活用することになる。
FCAジャパンが販売するのは、未架装の状態のデュカトであり、それをベースにデュカト販売ネットワーク参加者がユーザーの要望に応じたオリジナルキャンピングカーを販売できるという仕組みである。
こうしたベース車は、日本語では「種車(たねしゃ)」と呼ばれるビジネス領域だ。実は、日本にすでに輸入されている欧州系キャンピングカーのなかには、デュカトを種車としてカスタマイズされた完成車が存在する。
FCAジャパンとしては、日本での生活環境によりマッチしたさまざまなカスタマイズを、種車の車両補償をしっかり保った上で行うことになる。
日本メーカーの種車では、トヨタ「ダイナ」の「カムロード」、また「ハイエース」が一般的だが、トヨタ本社が直接キャンピングカー事業に関与しているわけではない。
あくまでも、トヨタ正規販売店における新車補償の範囲で行う販社架装、またはアフターマーケット事業者が自社で独自補償するかたちの架装のために種車を使うという事業形態だ。
また最近では、軽自動車ベースの軽キャンの需要も高まっているが、ホンダ「N-VAN」やダイハツ「アトレー」などで、キャンピングカ―へも対応できるようなオプションパーツの設定はあるが、メーカーとしてキャンピンカー架装事業は手掛けていない。
このような業界実状から、FCAジャパンによる架装を前提としたデュカト専門販売ネットワークは、とても斬新なアイデアだといえるだろう。
デュカトのメーカー希望小売価格は469万円からで、2022年下半期からのデリバリーを予定している。
■ライフスタイルの変化によって、さらなる需要拡大の可能性
実は、筆者自身も現在、ハイエースベースのキャンピングカー仕様車を日常的に使用しており、昨今のキャンピングカー市場の動きを定常的に観察している。
キャンピングカーブームと言われて久しいが、キャンピングカービルダーやディーラーが加盟する日本RV協会によると、過去10年間で日本国内でのキャンピングカー保有台数は右肩上がりが続いている。
2012年は8万500台、2016年には10万台を超え、直近の2021年は13万6000台まで成長している。2021年の新車と中古車の販売総額は前年対比109%の635億4000万円となった。
自動車産業全体でみれば、市場規模はまだまだ小さいが、客単価が高く、またカスタマイズによる周辺分野ビジネスへの広がりが大きい分野だ。
いわゆるチューニングカー市場が冷え込んでいるのとは対照的に、キャンピングカーは事業者がしっかり儲けることができるアフターマーケット事業だともいえるだろう。
業界関係の各方面に話を聞くと、「コロナ禍となって、ブームはさらに加速したが、最近は市場の動きが成長基盤の上で安定してきた」という指摘が多い。
確かに、三蜜を避ける、リモートワーク、新しいライフスタイルといったキーワードのもと、コロナ禍でキャンピンカーに対するメディアの露出が急激に増えた。
テレビ番組やYouTubeでは、さまざまなタレントがキャンピンカーを活用する様子が流れた。こうして、コロナ禍前までの”特殊なクルマ””庶民には手が届かない高価なクルマ”といった、乗用車ユーザーのキャンピングカーに対する見方がかなり変わった印象がある。
既存のデュカトをベースとしたキャンピンカーは1000万円超の高級車だが、富裕層を中心に着実に販売が伸びている状況だ。
FCAジャパンの試みが弾みとなり、この領域がさらに需要が増える可能性は充分にあると感じる。
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