「伝説の名車」と呼ばれるクルマがある。時の流れとともに、その真の姿は徐々に曖昧になり、靄(もや)がかかって実像が見えにくくなる。ゆえに伝説は、より伝説と化していく。
そんな伝説の名車の真実と、現在のありようを明らかにしていくのが、この連載の目的だ。ベテラン自動車評論家の清水草一が、往時の体験を振り返りながら、その魅力を語る。
文/清水草一
写真/ホンダ
■若者向けなのに高価だった理由とは?
「サイバースポーツ」と呼ばれた2代目CR-Xは、猛烈にスタイリッシュなクルマだったが、今思い返せば、初代であるバラードスポーツCR-Xのほうが、それより上だったかもしれない。初代CR-Xは、サイドの絞り込みの少ない素直なデザインゆえ、飾り気のない、どストレートなカッコよさにあふれていた。
初代モデルのデザイン上のアイコンは、初期型に設定されていた「ルーフベンチレーション」だ。ホンダのリリースには、『量産乗用車世界初のルーフ・ラム圧ベンチレーションも用意。飛行機のように天井からフレッシュエアが降りそそぎ、快適な換気が可能な設計(1.5iルーフベンチレーション仕様車)』と書かれていた。ルーフ後方に設けられた開閉可能な「フタ」は、どこかラリー車のようで、秘密兵器的でもあり、私を含む当時の青少年の心に深く食い込んだ。
1.5iを選択するとノーマルルーフは選べず、ルーフベンチレーションか電動アウタースライドサンルーフ仕様のどちらかにするしかなかった。ルーフ自体が非常に短いため、サンルーフはルーフ内に格納できず、電動でルーフがボディ外側後方にスライドする、世界初の方式を採用していた。そちらも十分ユニークだったが、潜望鏡のようなルーフベンチレーションにはかなわなかった……ように思う。
いったいなぜこんな「フタ」が付けられたのか。当時、初代CR-Xのターゲットは、パーフェクトに若者だった。価格は99万3000円から138万円。いま考えると目玉が飛び出るほど安い。お金のない若者が、オプションのエアコンを付けられなくても、ルーフベンチレーションを開ければ夏も暑さをしのいで快適なドライブができるという、ホンダの親心だったのだ。現代(約40年前ですが)の三角窓である。
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