■「全ディーラーに急速充電器の設置」はトヨタのBEV普及に向けての「仕込み」の一部
だが、「約3年で全トヨタディーラーに急速充電器を設置」という計画には、ただトヨタのBEVの販売促進という側面だけではなく、実は深い意味が込められている。それがよく表れていたのが、トヨタ初の量産BEV、bZ4Xのオンライン発表会とその質疑応答だった。
トヨタが考えるBEV普及への道筋とそのなかでの急速充電器の設置の位置付けについて、以下に解説する。
トヨタの考える「EVの普及が日本で遅れている理由」の最大の一つは、ユーザーが感じているBEVへの懸念や不安がまだまだ大きいこと。
割高な新車価格、バッテリーなどのメインテナンスコスト、乗り換え時の下取り価格など、BEVの保有期間を通じたコストが見えてこない不安に加え、長距離ドライブに出かけられるには一台では事足りないかもという充電インフラに対する不安も強い。
これらをできるだけ解決しない限りBEVに乗り換える人は増えないので、自動車メーカーとしてできることを一つずつやっていくのがトヨタの方向性だ。
手始めに、国内ではbZ4X全車をKINTOによるサブスクリプション形態での販売にした。トヨタが気合い入れて作ったBEVの新型車を全車サブスクにする、というのは相当の決断だ。
サブスクだと、契約期間中は最初に決められた毎月の支払い額以上の追加費用は発生しない。仮に何らかの想定外のトラブルがあって高額のメンテ費用が発生しても、契約期間終了時に残価が大幅に下がっていても、それらのコストはKINTO、というかトヨタが負担することになる。
「BEV買ってみたけどもうこりごりだよ、やっぱりガソリン車に戻る」ということが起きれば、一時的にBEVの販売台数が増えることはあっても保有台数は増えないし、社会全体で見てもBEV投資の元が取れなくなり、非常に大きな無駄となる。単にBEVの販売台数を増やすのではなく、日本のBEV保有台数を増やしたい。そう考えたトヨタは、ユーザーにコスト面でのリスクを転嫁せず、自分でとることにした、ということだ。
また売り切り形態では、ユーザーがディーラー以外でメンテナンスすることを選んでしまえば、ユーザーとの関係が途切れてしまう。だがサブスクであれば、常にユーザーと販売店/メーカーとの関係は維持され、必要なメンテナンス、ソフトウェア・ハードウェアのアップデートは基本完全実施が可能。
クルマに不具合が発生したらコネクテッド技術ですぐに認識し、入庫を促すことも可能だ。「常に最新のテクノロジーにアップデートされるし、ちゃんとメンテもしてもらえて安心して乗れて便利で、やっぱりBEVに乗ってみてよかった」と思うユーザーを増やすことができる。そして中古車の価値も保たれ、結果としてトヨタが取るリスクも減らすことができる。
さらには乗り換え時に、メーカーや販売店が知らないところで知らない業者に売られていくこともないので、バッテリー回収と3R(リビルト、リユース、リサイクル)も、トヨタがしっかり責任を持って行えて、カーボンニュートラル実現や、社会的責任を果たす観点からも、メリットが大きい。
よく「クルマを所有することから今後『モビリティをサブスクする』形に変化していく」、と言われるが、どういう意味かわかりにくいところもあった。
だが、「クルマを売った後にユーザーとの関係をより広げていくことが重視されるようになる」と言い換えるとわかりやすい。それが今後ますます重要になること、BEVとサブスクとは非常に相性が良いこともわかってもらえるだろう。
前置きが長くなったが、トヨタの持つ全国約5000もの巨大な販売店ネットワークの全てに急速充電器を設置することで、メンテナンスや車検だけでなく、BEVユーザーにより頻繁にディーラーを訪問してもらい、充電を待つ顧客と積極的につながりを持ち続け、広げていくことが可能になる。
また他社のBEVユーザーにも開放することで、新たな顧客とつながりを作り、トヨタファンを増やすことを目指す。単にトヨタが新車を売って儲けるだけではなく、クルマを保有している間にもユーザーにもメリットのある新しい付加価値を提供してメーカー・ディーラーが対価を受け取り、究極的には日本でのカーボンニュートラルの実現、BEVの普及を目指す。
このアプローチが取れるのは、テスラではなくて、地域に密着した実販売店網を持つトヨタだ、という深い思いと考えに基づいているのだ。
コメント
コメントの使い方トヨタはEV充電インフラを進めるだけでなく、既存EV充電器も他社車両の利用をしやすくすべきだ。現状は営業時間内でかつEV充電に関係ない車をEVスペースに止めている。非常に利用しづらい。