実は自動車メーカーの技術をフル活用? テスラを成功に導いた「既存の知見」と「新たな価値観」のEV開発

テスラはエンジン車にない、EVならではの未知なる体験を提供し続けた

2019年に日本に導入されたモデル3。シンプルな内外装とテスラ最新の技術を搭載したテスラのエントリーモデル
2019年に日本に導入されたモデル3。シンプルな内外装とテスラ最新の技術を搭載したテスラのエントリーモデル

 EVらしさを、徹底追求することで、エンジン車と違う価値観を体現せたのがテスラである。すべてを自社開発したモデルSは、最新の電気技術に加え、時代を反映した情報通信技術を携えて登場した。

 車両の鍵をもって近づけば、自動でドアロックが開錠される。そして乗り込めば、イグニッションスイッチを押さなくても、ブレーキペダルを踏んでシフトレバーをDレンジに入れるだけで走りだせる。

 エンジン車で慣れ親しんだ、いわば発進のための儀式ともいえる手順を踏まず運転をはじめられる様子に、はじめは戸惑いもあった。だが、最新技術を正しく理解すれば、モデルSの走りだすまでの手順は、何ら危険もなく、安全に走り出せる内容である。

 もう何年も前から、エンジン車もバイ・ワイヤーと呼ばれる技術を活用し、各種スイッチの操作は電気信号として機能部品へ指示され、それに応じて稼働する仕組みが採り入れられている。ならば、あえて個別のスイッチをダッシュボードに並べなくても、情報端末として不可欠な液晶画面上のタッチ操作に切り替えても差し支えないはずだ。

 それがモデルSでの大画面であり、のちのモデル3ではさらにスイッチ類が省かれ、大画面での項目選択と、ステアリングコラムでのスイッチ操作のみでほとんどの機能を利用できるようにした。

 理にかなった合理性を徹底追求することで、ほぼ一律の造形となっていた車内空間に新たな世界観を生み出した。モデル3の車内は、驚きと感動にあふれている。

 それらは単に奇抜さを求めた姿ではなく、操作や状況確認には、ヒューマン・マシン・インターフェイス(HMI)を徹底追求した容易さと安心がもたらされている。それはスマートフォンの使い勝手に通じる。

 時代に適合するだけでなく、どちらも電気を使って機能する商品である点で通じており、逆に、既存の自動車メーカーのHMIは、テスラに比べれば不十分で、扱いにくささえある。

テスラが掴んでいたEVの成功のカギとは?

 クルマとしての扱いにおいても、テスラはほかの自動車メーカーと異なり、充電基盤も自ら整備することで、リチウムイオンバッテリーを徹底的に使い切る性能をもたらしている。

 バッテリーへの充放電という言葉が使われるが、放電はモーター駆動と結びつき、クルマの機能としてだけで完結する話だが、充電は、単にバッテリーへの電力の受け入れだけでなく、電気を供給する充電機との関係性まで考慮されなければ、安全で効率的な充電はできない。

 テスラは、モデルSの導入からスーパーチャージャーやウォールコネクターなど、自らの充電口と充電手法を用いた充電基盤を、自らの負担と責任において社会へ普及させた。だからこそ、短時間で高効率な充電が可能となり、充電への不安を解消できるのである。

「日本の充電基盤は未成熟だ」などと発言する自動車メーカー首脳とは逆の発想だ。

 こうして、リチウムイオンバッテリーの充放電を原点から把握したテスラは、車載バッテリーに関して、ラップトップコンピュータなど汎用で使われる製品を基に利用しはじめた。

 EV用以外の汎用バッテリーを使いこなせたのも、リチウムイオンバッテリーの充放電を熟知すればこそで、それを安全に、最大活用できる制御が要であることを知っているからだ。

 のちに、各地にギガファクトリーと呼ばれるバッテリー工場を建設し、拡大採用している。それEV成功の鍵がバッテリーにあることを知っているからこそであり、それに既存の自動車メーカーも追従しているのが実態だ。

 エンジン車からも違和感なく乗れるEVなどという発想は、スマートフォンをつくろうとしているのに、携帯電話と違和感のない使い勝手を目指すようなものだ。スマートフォンは、独自の魅力を最大に追求することで消費者を驚かせ、魅了し、時代を転換させた。

 EVもその本質に迫り、本物志向で、最大限に本質的魅力を発揮させる企画や開発ができなければ、この先もずっとテスラを抜くことはできないだろう。

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