■TJクルーザーの二の舞にならない?
〇〇クルーザーといえば、ユーザーにとって”苦い想い”がある。それは、TJクルーザーだ。
2017年の東京モーターショーで世界初公開された際、筆者はトヨタブース内で以前からの知り合いを含む複数人のトヨタ関係者から「市場動向を見極めてから量産へ」といった声を聞いていた。
実際、展示されたコンセプトモデルの外観はボディのウエストラインから天井までの、いわゆる上屋(うわや)が小さい独特の意匠だが、インテリアの出来栄えから量産前提というトヨタの想いが伝わってきた。
ダッシュボードのデザイン、そして助手席とリアシートがフルフラットになる機構など、とてもしっかりと出来ていた印象がある。
プラットフォームもプリウスやカムリと共通で、当時トヨタ車が続々と転換していたTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)を採用するといった触れ込みも、量産前提の条件として理解できる内容だった。
その後、自動車メディアの一部ではTJクルーザー量産化を指摘する記事が出たが、結果的にTJクルーザー量産計画は事実上、フェードアウトしてしまったようだ。
なぜだろうか? ひとつは、社内体制の中で意思決定プロセスに関することではないか。
TJクルーザーのコンセプトモデルが登場した当時、トヨタは社内カンパニー制という新体制に移行してから1年ほどであり、筆者の記憶が正しければTJクルーザーはCV(コマーシャルヴィークル)カンパニーが対応していたと思う。
つまり、これはランドクルーザーや各種ミニバンを担当するトヨタ車体だ。
その後のトヨタのSUV戦略では、RAV4を中核に、ヤリスクロス、カローラクロス、ハリアー、さらにダイハツとの連携でライズという、乗用車からのクロスオーバーとしてのSUVが主流となっていった。
ミニバンとSUVの融合というTJクルーザーでは、トヨタが想定する販売台数に達することが難しい、または海外市場での需要があまり見込めない、といったトヨタ上層部の経営判断からTJクルーザーは事実上、お蔵入りになってしまったのかもしれない。
また、当時の報道で「FJクルーザー後継」という言い回しを数多く見たが、FJクルーザーがアメリカ主体の海外モデル専用車だった時代からその動向を知る者のひとりとしては、TJクルーザーとFJクルーザーは同一線上にいる製品でないように感じていた。
なぜならば、FJクルーザーには、GMハマーH3というガチンコライバルがいたからだ。当時、アメリカ国内で両モデルの比較試乗を各種メディア向けに頻繁を行った者として、そう感じる。
一方、TJクルーザーは上屋の小ささという外観意匠ではFJクルーザーっぽさが少しあるが、実際のライバルは三菱デリカD:5であった。トヨタとして、競合他社による”唯一無二の存在”は基本的に許さない、といった営業戦略の現われだろう。
いずれにしても、前述のトヨタ新BEVラインアップの中にTJクルーザーらしきモデルはなく、それに代わって注目が集まっているのがコンパクトクルーザーだ。
e-TNGA採用のコンパクトクルーザーが、トヨタBEV飛躍の起爆剤になるだろう。今後のトヨタの動向を注視していきたい。
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