2018年5月、突如、アメリカのトランプ大統領によってぶち上げられた輸入車への25%課税。ニュースを知った自動車関係者はさぞ驚いたはず。
先だっての日米首脳会談(9月26日)を経ての、「日米物品貿易協定(TAG)の締結に向け二国間交渉を開始」の報に、一層の不安を募らせている人もいるのではないだろうか(TAGは「物」の貿易に関する協定のため、自動車関税引き上げの可能性も依然残り続ける)。
もし仮に関税引き上げが現実になった場合、はたして国内メーカーはもとより消費者にどんな影響を与えるのか。
もしかすると、現地生産が進んでいる現在、それほど影響はないのか? それとも日本経済が大きく傾くような甚大な被害が出るのか??
経済ジャーナリスト福田俊之氏とともに検証してみました。
※本稿は2018年6月のものに適宜修正を加えています
文:福田俊之、ベストカー編集部/写真:Adobe Stock、ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2018年7月26日号
■どのメーカーにどんな影響が降りかかる?
(TEXT/福田俊之)
「聞く耳」を持たないことには、大方予想はついていたが、さらに「貿易戦争」の機運が高まれば、米国は鉄鋼・アルミニウムに続き、自動車の追加関税にも踏み切る可能性があると言わざるを得ないだろう。
2018年6月中旬、カナダで開かれたG7サミットの場でも「米国第一主義」を掲げて貿易赤字削減を迫るトランプ大統領と、ほかの6カ国との亀裂が鮮明になった。通商政策を巡り米国の保護主義政策に非難の声が集中したにもかかわらず、トランプ氏は強硬姿勢を崩さなかったという。
米国が輸入車に高関税を課せば、自動車産業にすがりつく日本経済への影響は大きい。2017年の日本からの輸出総額は78兆2865億円。このうち、米国向けが15兆1135億円で2割近い。しかも、米国輸出のうちで自動車は4兆6000億円と3割を占める。現地で使用する自動車部品の対米輸出額も900億円を超えるほどだ。
トランプ政権による自動車関税引き上げの動きを少し振り返ってみよう。自動車や関連部品に輸入制限を認める米通商拡大法232条に基づく調査を指示したのは5月23日。
発表直前には「偉大な労働者にとって、まもなく大きなニュースがあるだろう」とツイッターで予告までしていた。現在乗用車の輸入関税は2.5%だが、その10倍になる最大25%の高税率を課すという厳しい措置を発動する考えを示唆したのだ。
トランプ氏の最大の関心事は11月の中間選挙までに、いかに政治的な得点を稼ぐか。ツイッター予告も自動車産業が集積する中西部各州などの有権者にアピールする狙いが透けて見える。
同時に、自動車の輸入制限は有利な条件を引き出すための“脅し”とも受け取れる。G7サミット前の日米首脳会談では7月にも新たな通商協議を開催することで一致したが、高関税の適用や除外を取引材料に使い、日本に農作物などで譲歩を迫る可能性もある。
とはいえ、自動車の追加関税が実現すれば日本の通商戦略の根幹が揺るぎかねない。いっぽうで、米国の消費者も輸入車価格の上昇や選択肢の削減などで不利益を被る恐れもある。
5月に日本自動車工業会の会長に再登板した豊田章男・トヨタ自動車社長も「米国のお客さまと自動車産業従事者に不安を与えるものであり、強い懸念を表明する」のコメントを発表した。
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