■EVというジャンルにおいて優位性が高い中韓メーカー
中国系では、コロナ禍前にインドネシアに進出していた乗用車ブランドはウーリン(上海通用五菱汽車)とDFSK(東風小康汽車)のみであったが、今回訪れるとMG(上海汽車)とチェリー(奇瑞汽車)が新たにブースを構えていた(奇瑞は再進出)。
ヒョンデについては現地生産工場が稼働したばかりということで、“景気づけ”ということもあったのかもしれないが、それだけではないようだ。
2022年春に、コロナ禍となって初の海外ショー取材ということで、タイのバンコクモーターショーに出かけた。バンコク市内は少し目抜き通りをウォッチしていれば、中国メーカーのBEV(バッテリー電気自動車)をほどなく見かけることができるほどBEVが普及している。
それもあるのか、ショー会場内ではBEVを得意とし、すでにタイで積極的に販売しているGWM(長城汽車)やMG(上海汽車)といった中国系メーカーが話題をさらっていた。
そのなかで一般乗用車はもとより、バンコク市内ではタクシーや救急車までがエアロパーツなどでドレスアップしているので、そのことをタイの現地事情通に話すと、
「BEVが目立ってきたとはいえ、まだまだタイではBEVが苦手な日本車が圧倒的な販売シェアを誇っています。しかし、実際売れている車種をみると非常に限定的となっています。そこで他人と差別化したいという意識からドレスアップを熱心に行う人が多いようです」と答えてくれた。
この“選択肢が少ない”というニュアンスの言葉を今回インドネシアで同行してくれていた事情通からも、インドネシアにおいても日本車は圧倒的な販売シェアを誇るが“選択肢が少ない”と同じように聞くことができた。
トヨタの現地ウエブサイトに掲載されている乗用車の車種数は数えてみると22車種あるが、そのうちジャカルタやその近郊で筆者が感じた範囲では頻繁に見かけたトヨタの乗用車は5台程度であった。
日本市場でもよく考えれば頻繁に見かけるトヨタ車はそれほど車種数が多くないが、まだまだ伸びしろのあるインドネシア市場で90%以上という圧倒的シェアを誇っていても、見える風景は日本とはあまり変わらないのが現状ともいえよう。
つまり、いままではとにかく“四輪車に乗りたい”として、インドネシアの自動車市場は成長してきたのだが、その成長過程でジャカルタなどの大都市を中心に消費者が“他人とは違うものに乗りたい”という市場が成長して新たなフェーズに入ってきたというのが、前述した事情通のコメントを聞き、筆者もそれを感じた。
そして“他人と違うクルマ”というニーズが、いままでは購買対象としてはあまり見向きもされてこなかった韓国や中国車に光があたるようになってきたようだ。ここ数年で、韓国車も中国車も魅力を増したモデルを多く市場投入しており、さらにインドネシア政府も電動車普及に積極姿勢を見せている。
その点では日本メーカーに対し世界的にも優位性が高いので、韓国、中国メーカーもタイミングを逃さずに“勝機あり”との判断で動いているように見える。
■BEVで出遅れる日本……新興メーカーにとっては恰好の「攻め時」か
一般的に攻められる側より攻める側のほうが有利といわれている。攻められる側は防戦を強いられるからである。日本メーカーも圧倒的なシェアを誇るものの、その内情を見ればタクシーなどのフリート販売に支えられている部分も多い。
そして今後はBEVで日本車が出遅れているところで、消費者がより韓国や中国メーカーに流れやすい環境を自らが作り出そうとしているようにも見える。
BEVが万能とはいわないが、かつて世界を席巻した日本車がBEVというトレンドに乗り遅れているその様子を新興メーカーはまさに“攻め時”と捉えるのはビジネスの常道。
しかも、成長市場で物事が進むのにスピード感のある新興国市場では“腰が重い”とされる日本メーカーはさらに追い詰められない状況にあるともいえよう。
タイでも中国MGブランドが市場進出した際には箸にも棒にもひっかからなかった。しかし、いまではBEVも追い風となり、バンコク辺りの大都市ではその評価もうなぎ上りとなり存在感を増している。
“日本車最後の楽園”ともいわれるインドネシア市場だが、今回のショー会場の様子を見ると、見えてくる風景は意外と早く、そして大きく変化するかもしれない。
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