絶好調だったのに… 現行型マーチが生産終了した一番の理由とは
この流れを大きく変えたのが、2010年に発売された4代目の現行マーチだ。東日本大震災の2011年をはずして2012年の登録台数を見ると、1カ月平均が約3300台だから、3代目のモデル末期を下まわった。
現行マーチが売れ行きを下げた一番の理由は、さまざまな質に不満が伴ったからだ。インパネの周辺は造りが粗く、後席の背もたれを前側に倒すと、広げた荷室の床に隙間ができた。操舵に対する車両の反応も曖昧で、カーブではボディが唐突に傾いた。街中を普通に走るだけでも、妙に気を使う。
そして日産は、2013年に三菱と共同開発した軽自動車のデイズを発売している。当時の販売店からは「マーチの内外装や乗り心地に不満を感じるお客様には、デイズを推奨する。デイズの後席はマーチよりも広く、内装の質も高いから、軽自動車でも満足していただける」という話が聞かれた。2014年には全高が1700mmを超えるスライドドアを装着した軽自動車のデイズルークスも加わり、マーチはさらにユーザーを減らした。
現行マーチの登録台数は、2015年には1カ月平均が約1300台だから、2012年の40%まで落ち込んだ。コロナ禍になる直前の2019年は約600台だ。近年の日産では、価格の求めやすい車種は、ノート/ノートオーラ/デイズ/ルークスに集約している。マーチは戦力外とされ、改良もほとんど実施されずに売れ行きを下げた。
販売店によると「マーチはすでに(タイからの)輸入を終了させており、10月には在庫車も売り切る。今後のマーチに関する話は何も聞いていない」という。マーチは終了すると考えるのが妥当だろう。
今の日産は、効率化のために車種を減らす戦略だ。コンパクトカーでは、ノートを日本向けに開発した。ベーシックなノート、上級のノートオーラ、SUV風のノートオーテッククロスオーバー、スポーティなノートオーラNISMOと多彩にそろえて幅広いユーザーをカバーする。
ただしパワーユニットも、効率化のためにハイブリッドのe-POWERのみにした。ノーマルエンジンは用意しないから、ノートシリーズはコンパクトカーなのに、価格はすべて200万円を超える。
そこで先に述べた軽自動車も用意され、デイズの価格帯は132万7700円から191万5100円、ルークスは141万5700円から213万2900円だ。以上のようにデイズ+ルークス+ノートシリーズを並べると、130万円から300万円の価格帯を網羅できる。
以上のようにマーチは、かつて日産コンパクトカーの主力として高い人気を得たが、次第にティーダなど小型車が増えて売れ行きを下げた。さらに軽自動車も設定されてユーザーを奪われ、現行マーチは造りが粗いから、売れ行きを一気に落ち込ませた。これは日産にとって想定の範囲内で、マーチの廃止に至った。
この車種を集約する戦略は、開発と生産のコストを最小限度に抑えるうえでは合理的だが、ユーザーの選択肢は減ってしまう。この点を考えると、欧州向けのマイクラを日本で売る方法もあったが、車両の性格はノートオーラと重複する面もある。
その意味で、やはりマーチは、ノートよりも安いベーシックなコンパクトカーであるべきだ。現行マーチの造りを粗くしたことが、廃止に向かう始まりであった。
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