日本と欧米の衝突安全・燃費基準は別物!? 水野和敏緊急提言「日本車が世界に取り残される」

■日本市場の風潮と開発環境は……?

 ここまでクルマの商品競争力は、その国の顧客の商品への要求や、規定される法律の厳しさのレベルに左右される話をしました。

 これらが私に、この先の国産車への危機感を抱かせる要因です。今のままでは世界の自動車産業から取り残されてしまう恐れがあります。

 その理由が、どうせクルマは皆同じ、知り合いのセールスマンから安く買えばよい。近距離しか使わないし、カーシェアでもいいか? という「クルマ離れ」と言われる市場の風潮。そのなかでの開発。

 それに加えてメーカー側も、EVや水素エンジンや運転支援装備など、ノウハウや蓄積がない新しい技術開発に目を向けず、今までのエンジン車と同じように、秘匿管理で限定したテストコースを使うだけの開発を続けます。

 欧米では新車開発での公道テスト専用のライセンスプレートが発行されます。

 新たな、未知の技術だからこそ、社内のテストコースだけではなく、実際に顧客が使うシーンや、公共の走行環境の中で、信頼性、実用性や異常事態の予知テストを支援している。

 しかし日本は「開発行為での公道走行は、法律で全面禁止」です。

■日本の法規は世界基準にまったく届かない!

 そしてさらに拍車をかけているのが、軽自動車に引っ張られる先進国の中で最も甘い法律の規定内容です。

 例えば今の日本の衝突安全規定を満たしても、欧州やアメリカでは胸を張ってクリアできませんし、売れません。

 法規の規定が厳しければ、メーカーはクリアするために知恵と技術力を使い、レベルを上げた商品を開発します。

 欧州はCO2排出量の削減と大気汚染を抑制するため、本気で厳しい排ガスと燃費の規制をしています。

 例えば、欧州の排ガス測定はマイナス8℃のコールドスタートからですが、日本は常温スタートです。

 エンジンを始動させる時に、マイナス8℃からと常温では燃料の量も排気の温度もまったく違います。排ガスのCOやHC、微粒子も多く出ます。

 欧州車はこのコールドスタートで燃費や排ガス浄化性能をよくするために、早くエンジンや触媒を温めようと、排気マニホールドやターボ周辺を保温材で覆ったり、グリルを開閉式にして熱を逃がさないさまざまな工夫をしています。

 またモード走行パターンでの高速域も欧州は130km/hに対し日本は120km/hです。

 (『ベストカー』本誌)11月10日号の『本当の自動車技術講座』で詳しく解説しましたが、速度が燃費に及ぼす影響は凄く大きいのです。

 空気抵抗は速度の二乗で大きくなります。測定する速度が高い欧州のほうが燃費は厳しく、「日本は甘い規定」なのです。WLTCモード燃費、その中身は欧州と日本では大きく違っているのです。

※WLTCモードにおいて日本では「エクストラハイ」のスピードレンジを不採用
※WLTCモードにおいて日本では「エクストラハイ」のスピードレンジを不採用

 また、欧米には「サーベイランス・テスト」があります。

 市場でユーザーが一定期間使った中古車を買い上げて、燃費や排ガスの法規適合の抜き取り検査をするのです。市場での検証テスト。これはアメリカが特に厳しい。VWのディーゼル排ガス偽装問題も米国でのサーベイランスで発覚したのです。

 日本は新型車の型式取得認証では正確に試験をしますが、実際の市場での使用状況はほぼノーチェック。車検の排ガス検査も昔の簡略方式です。

 逆に、新型車認証ではメーカーの自主試験も認めるかわりに、市場の車両を厳しくチェックするアメリカのサーベイランス制度とは対照的です。

次ページは : ■日本の衝突安全の規定は欧米と比べて大甘

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