日本と欧米の衝突安全・燃費基準は別物!? 水野和敏緊急提言「日本車が世界に取り残される」

■各国の風土、文化、顧客の心がクルマを作る

 ひとつの例を挙げてみます。1970年代初めまではアメリカが自動車産業のリーダーでした。

 欧州車や日本車は、足元にもおよびませんでした。キャデラック、リンカーンやムスタングなど、アメ車が世界の花形で、席巻していました。欧州車はこの時代はまだ世界をリードしていなかったのです。

 1970年代初めまで、いくつかの州ではフリーウェイは速度も無制限でした。自動車がなければ生活が成り立たないアメリカは、自動車の環境整備を急速に進めていました。

 ところが1970年代のオイルショックや排気スモッグ問題を契機に、速さは社会に不適合とされ、すべての道路で最高速度は55mph、(90km/h)以下に規制されました。

 その結果何が起こったか?

「クルマの走りはどれも同じ」と捉えられ、お客様の要求は「安さとラグジュアリー感」に変化し、メーカー視点も「生産の効率化や売りやすい安さ」が主体になり、その後のアメ車は、ゆったりと走る、ソフトで大味な買い得のクルマに変わっていきました。

 世界のトップリーダーだったアメリカの自動車が、坂を転がり落ちるようにブランド価値を落とし、入れ替わるようにドイツを筆頭にして欧州車が世界のブランドをリードするようになりました。

 クルマは、その国のお客様の要求や社会が定める法律などの市場の要件が作るのです。

現在の日本の市場環境、法規制などが世界基準から見たら「甘い」のだ、と警鐘を鳴らす水野氏
現在の日本の市場環境、法規制などが世界基準から見たら「甘い」のだ、と警鐘を鳴らす水野氏

「どれも同じ」だと言って、市場が求めなければ、メーカーは高いレベルの性能や安全性や環境対応を追い求めません。利益を生みだすことが企業活動ですから。

 言うまでもありませんが、ドイツには、速度無制限のアウトバーンや、自動車開発に最適で過酷なニュルブルクリンクサーキットがあります。

 欧米のメーカーが開発中の試作車を持ち込み、競合するメーカーが、互いの開発状況を見ながらテストを繰り返す“インダストリー・プール”と呼ばれる合同テストが繰り返されています。

 R35GT-Rもこのなかで開発をしました。ポルシェやフェラーリ、BMWなどの試作車との混走テストです。これはメーカー同士が切磋琢磨して商品力を向上させる場でもあります。

 通常、クローズドな自社のテストコースだけで、秘匿管理のもとに単独で開発する国産メーカーとは真逆です。

 そして市場の求めは、一般道でも100km/h、さらに速度無制限のアウトバーンがあるから、お客さんは「移動時間をお金で買う」のです。

 高速を安全に、しかも疲れずに走れる性能を手に入れることで、生活やビジネスの行動範囲が格段に広がります。この市場ニーズがあるから、ベンツやBMW、ポルシェは高速性能を追求した高価なハイパフォーマンスカーを真剣に開発し、販売ができるのです。

 合同開発テストや市場環境、これらはドイツの自動車産業のブランド力にとって大きな意味があります。

 ここではアメリカやドイツの一部の例を挙げましたが、実際には、イギリス、フランス、オーストラリアなど、クルマが生み出される背景には、その国ごとの「文化や人の生活」、そして社会対応への重要度など、多くの違う価値観があります。

 これらの背景はクルマという商品を評価、検証する際に大切な要件です。

 生産国のクルマの価値観や使われ方が日本のユーザーにとって、どんなベネフィットや楽しみを提供するか? その特徴や採用の技術はどのようなモノで、製造のレベルはどうなのかなどを正しく伝えたいと思っています。

 だからこそ私は、頭の中に自動車の技術的な部分を縦軸に、価値や魅力を横軸に描き評価検証しています。

 その結果、最近の欧州車の多くは「高い評価」となり、残念ながらアメリカ型での効率向上や原価低減を狙い開発の規格化や規定化を進め、より分業化開発された日本車のなかには「高い評価ができない」クルマも散見されます。

 もちろんヨーロッパのクルマでも高く評価できないものもありますし、これまでの『水野和敏が斬る!!』の記事中では、きちんとその理由の説明と併せ評価しています。

 やはり、日本車は最新の世界基準からみると、取り残されつつあると感じています。

 確かに、安い価格やスペースの実用効率などは素晴らしいと思いますが、走行性能や制動性能、もてなしへの配慮、燃費や排気や衝突安全などの社会対応性や、新しい技術の信頼性など、これからEVや水素燃料、自動運転などになっても変わらない、基礎となる商品競争力の部分です。

 欧州プレミアムブランドのベンツやBMWだけではなく、フォルクスワーゲン(VW)やボルボ、あるいはフランスのプジョー・シトロエンなどと比べても、です。

 さらに、皆さんが思っている以上に、アメ車はグローバルスタンダードへの変革に挑戦しています。

一定速度での走行時に必要な出力
一定速度での走行時に必要な出力

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