日本と欧米の衝突安全・燃費基準は別物!? 水野和敏緊急提言「日本車が世界に取り残される」

■日本の衝突安全の規定は欧米と比べて大甘

 今の日本の衝突安全規定は欧米だけではなく、その他諸外国と比べても緩いのです。

 なぜか? 日本は、軽自動車が認証できる緩い規定にしているためです。日本の衝突安全の星の数と、欧米の星の数では中身は違います。

 例えば40%オフセット前面衝突試験。日本では静止した被試験車両に、相手車両に見立てた台車(バリア)を64km/hで衝突させます。しかし欧州の規定は、試験車両もバリアもともに走行状態です。

 現実に起こる衝突は、双方走っています。停車している状態での正面衝突は、現実的ではありません。

 側面衝突も同様です。日本では一昨年までは950kgの台車が停止した被試験車両の側面に55km/hで衝突する試験でした。最近やっと欧州と同じ1300kgに改定されましたが、軽自動車は950kg台車のままです。

 一方米国は最近1500kgのバリアに改定されました。最新の欧米のクルマでは、Bピラーやシルがガッチリ太く、結合部も大きなRを描いた形状となっているのも、この側突対応なのです。そしてこの最新の側突試験で優秀な結果を獲得したのがスバルのアウトバックです、しっかり対応をしています。

 また、転倒時のルーフ強度の規定も日本にはありません。しっかりしたAピラー、Bピラーでなければ支えきれません。

 また、欧州で規定されている、側面にポールを衝突させる試験も日本にはありません。横を向いてドア部から信号機の柱や電柱に衝突するような事故のシミュレーションです。

JNCAPにおける衝突試験の規定。2年前まで、台車の重量は950kgだったが、現在は欧州と同じ1300kgに変更された
JNCAPにおける衝突試験の規定。2年前まで、台車の重量は950kgだったが、現在は欧州と同じ1300kgに変更された

 軽から小型車までさまざまなバリエーションのミニバンが売られるのも、欧米では当たり前の衝突安全規定がないからとも言えます。

 そしてブレーキの失陥時(故障)に実際に止まれる停止性能の規定も日本にはありません。欧州車が大径ローターと、制動力の強いパッドを使っているのは、失陥(故障)時の停止性能の規定があるからです。

 さらに、大きな課題として国内全体のデフレ価値へのシフトがあります。高く売れる、優れたものを作りだし、利益を上げようではなく、安価な低開発国生産やIT化が後押しする「安けりゃいい」という商品の価値感です。

 世界のユーザーに満足してお金を払ってもらえるプレミアム性を持つ商品の開発がなければ、持続性は失われていきます。

 ここまで、自動車の商品競争力を生みだす、ユーザーの要求や社会の風潮、開発をする環境、そして影響の大きな法律の規定などについて話をしました。

 世界は真面目なモノ作りに邁進しています。最近のフランス車やアメ車も急激に変わっています。

■ガラパゴス化している日本のレギュラーガソリン

 これは本誌12月10日号の「本当の自動車技術」でお伝えしましたが、レギュラーガソリンのオクタン価も、世界に取り残されてしまう要因になります。

 日本のレギュラーガソリンは89オクタンで、今、欧米ではこんなに低いオクタン価のレギュラーガソリンはほとんど販売されていません。欧米は通常のレギュラーは95オクタンに変えました。

 上のカコミでも説明しているように、オクタン価89ではノッキングが起こりやすいために、濃いガソリンの混合比と遅い点火時期で開発します。

 逆に、薄い混合比と早い点火時期でもノッキングが出にくいオクタン価95を使えば燃費やCO2排出性能がよくなり、出力も上がります。ダウンサイジングを促進する技術開発につながるのです。

 たしかにハイオクはリッター当たり10円程度(約6%)高いのですが、95オクタンのエンジンにすると燃費は約7~8%向上します。

 CO2排出も削減できて、距離を走るほど、実用燃費の燃料費は安くなるのです。このため欧米はレギュラーガソリンのオクタン価を95に上げたのです。

 こうしてみると日本車は世界のスタンダードから後れつつあります。メーカーだけの責任ではありません。多くの人はそれに気がついていない。これは……品質で世界を席巻していた日本の家電が一気に凋落していった過去を思い出します。これが今、直面している危機なのです。

 国産メーカーだけの「自動車工業会」と、「輸入車組合」と日本では組織が分かれています、さらに、速度リミッターや運転支援装備の規定なども違います。ここにも課題があります。

 私が思う日本車の危機を話しました。このような背景まで含めてクルマを見て下さい。

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