■2026年までにEV150万台 EV専門会社を新たに設立?
EV戦略においては、多くの具体策の説明に踏み込みました。2026年までに10の新EVモデルを投入し、同年に150万台へEV販売を高める驚きの発表がありました。
2026年に電気走行レンジ(AER)を2倍に高めた次世代EV専用プラットフォームを導入します。
最も驚いたのは、新しいEV生産技術を導入し、1)工程数を半減、2)内製投資半減、3)開発原単位半減を目指すとしたことです。
工程数を半減するということは、単純に言って部品点数を半分に削減することとほぼ同じ意味です。サプライヤーへの影響も多大で、これほど思い切った大変革のアプローチを掲げたことは高く評価できます。
その実現に向けて、次世代EV開発の専任組織を新設し、ワンリーダーの下で開発・生産・事業を包括するオールインワンのチームで運営することも示しました。
それは、100%のEV化を宣言しているレクサスカンパニーを分社化し、開発から生産・事業にわたるEVビジネス全体を新しいアプローチで進めようとしているのではないかと筆者は感じました。
まず残存するハイブリッドからの収益を最大化させながら、バリューチェーン収益の拡大と原価低減力を合わせて、EVやモビリティへの構造転換費用のネガティブ要因を吸収する。そして持続的な収益成長の実現を目指し、「強いトヨタ」の復活を宣言したと言えます。
しかし、持続的に成長する「強いトヨタ」を実現するには、(1)2026年のEV販売150万台、(2)2026年から始まる新しいEV事業の競争力確立という、2つの条件がそろわないと、実は達成が困難なのです。
■EVの成功なくして全方位は成立しない
bZ4Xの不振で出鼻をくじかれた格好のトヨタのEV販売が、わずか3年で世界トップレベルの150万台を達成できる蓋然性は見えていません。
この生産にはざっと100ギガワット時の電池が必要です。しかし、トヨタは40ギガワット時の自前能力増強への投資が決まっているにすぎません。
この目標を、どのプラットフォーム、電池、工場で生産する考えであるのか、詳細はベールに包まれているのか、決まっていないかのいずれかでしょう。
150万台目標が大きく未達に終わったとしたら、2026年時点の収益は好採算なハイブリッドで強く支えられても、その後は規制対応コストやEVへの基盤変換コストが増大し、その先の成長を期待することが難しくなります。
最悪、2026年からのEV事業で充分な競争力が確立できなかった時は、コストが大幅に増大し、トヨタは収益衰退の崖に迫っていくことになるのです。
カーボンニュートラルを実現するために、マルチパスウェイ戦略を堅持することは非常に合理的な考えです。しかし、マルチパスウェイの確立の順序を間違えると、企業の競争力衰退を招きかねないのです。
EVの成功なくして持続可能性の高いマルチパスウェイ戦略はないと考えます。
「マルチパスウェイ戦略は正しい、だから企業の競争力が保てる」という命題は、現在の世界的なEVシフトの下では真ではないのです。
佐藤新体制はトヨタの固定概念を破壊し、まったく新しいトヨタへの進化を急ぐことが求められていると考えます。
●中西孝樹(なかにしたかき):オレゴン大学卒。1994年より自動車産業調査に従事し、国内外多数の経済誌で人気アナリスト1位を獲得。著書多数
【画像ギャラリー】上海モーターショー(2023年4月)で発表されたトヨタ・ホンダのコンセプトモデルたちを見る(13枚)画像ギャラリー
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