自動車は日々進化しているが、それはタイヤも同じ。中でも21世紀に入って研究が進んでいるのが、いわゆる「エアレスタイヤ(空気を充填しないタイヤ)」だ。しかし登場からすでにだいぶ月日が経つのに、今のところ正式採用する自動車メーカーはない。なんでだろう?
文:ベストカーWeb編集部/写真:ミシュラン、トーヨータイヤ
■各社が試作品を発表し、公道実験も行われているが……
およそ130年に渡って、自動車用タイヤはゴムに空気を入れるスタイルが守られてきた。乗り心地や静粛性など、空気入りタイヤが生み出した恩恵は数えきれないが、いっぽうでパンクによるリスクや使用済みタイヤの廃棄など、課題も残してはいる。
そんな中、21世紀に入ってこれをブレークスルーしようという動きが出てきた。そのひとつが「エアレスタイヤ」だ。「そりゃいったい何?」と思うかもしれないが、写真を見れば一目瞭然。浮き輪のようなチューブ構造を持たず、空気の代わりにゴム自身が緩衝材として機能するタイヤだ。
このエアレスタイヤ、前述したような課題を乗り越える資質がある。まず空気を充填しないから空気圧管理が不要。もちろんパンクもしない(最初からパンクしている?)。その結果廃棄されるタイヤも減るから、資源や環境にも優しいというわけだ。
実際、世界の名だたるタイヤメーカーがエアレスタイヤの開発に取り組んでいる。老舗のミシュランはもちろんトーヨータイヤやブリヂストン、住友ゴムなどが試作品を発表し、一部の製品は物流企業や郵政公社などと組んで実証実験も行われている。
となれば、そろそろどこかの自動車メーカーが正式採用しそうなところだが、今のところそんな動きはない。なんで実用化されないのだろう。
■ひょっとしたら発売秒読みかも!
その答えを探れば、「もうちょっと待って」といったところだろうか。
エアレスタイヤの技術は相当高まってきたのだが、空気入りタイヤが偉大過ぎてなかなか肩を並べられないのだ。
大きな問題点は、快適性と耐荷重だろうか。たとえばタイヤが高速で走行すると摩擦熱と音を発生する。空気入りタイヤは空気がそいつを吸収してくれたのだが、エアレスタイヤはそれができない。こいつが快適性を損なうのだ。
もうひとつの耐荷重だが、エアレスタイヤは荷重の変化に弱いといわれる。単に重さに強いタイヤはできているのだが、乗員や荷物によって荷重が変化したときに特性を保つのが難しいのだという。
しかしそれらを超えた最大の問題がある。それが法律の問題だ。世界各国の法律が「空気入りタイヤ」を前提に規定されているため、現状のままではいかに性能的に優れていても市販車への採用ができないのだ。
とはいえ光明は見えてきた。シンガポールやフランスで実証実験を進めているミシュランが、2024年中に「アプティス(Uptis)」というエアレスタイヤを発売すると予告しており、この発売に先駆けて、各国の法令が改正される可能性が高いからだ。
今後、各国の宇宙開発が進むと、月面車などにもエアレスタイヤが必須となる。素材や知能化といった要素も含めて、タイヤはまだまだ進化しそうだ。
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