定番のBMW、新進のアルファロメロをGT-R開発マイスターはどう見たか?

定番のBMW、新進のアルファロメロをGT-R開発マイスターはどう見たか?

 2018年10月にカタログモデルが発売開始されたアルファロメオのプレミアムSUV ステルヴィオ。果たしてどんなこいつはクルマなのか!?

 今年4月の追加モデル 2.2リッターディーゼルの「Q4」を、ドイツの定番 BMW X3 M40dと比較しながら元日産GT-R開発者、水野和敏が解き明かす!

【画像ギャラリー】アルファロメオ ステルヴィオ、BMW X3 2台の試乗の様子をギャラリーでたっぷりと!!!

※本稿は2019年9月のものです
文:水野和敏/写真:ベストカー編集部(撮影/池之平昌信)
初出:『ベストカー』 2019年10月26日号


■X3のこの考え方は理解できない

 皆さんこんにちは、水野和敏です。今回はアルファロメオのSUV、ステルヴィオを試してみたいと思います。

 ステルヴィオはFRプラットフォームのジュリアをベースとしたSUVです。

アルファロメオステルヴィオ2.2ディーゼルQ4

 以前、ジュリアを取り上げた時にはBMW3シリーズと比較しながら評価をしましたが、今回も正統派スポーツSUVの代表としてBMW X3と比較しながら評価をしてみましょう。ともにFRベースのスポーツ志向4WDです。

 まあしかし、改めて2台を並べて見ると、それぞれアルファロメオとBMWのブランドデザインそのものですね。逆に少し期待した面白さがないというか……。

 X3のM40dの価格は878万円ですが、これは少しお得な設定。これがベンツGLCで同程度のスペックのAMGだと1000万円近くなります。

 今回のステルヴィオは最近日本に導入開始された直4、2.2Lディーゼルターボで617万円。最も高額な2.9L、V6ターボのクアドリフォリオだと1167万円です。

 タイヤを見るとX3はオンロードスポーツタイプのピレリPゼロを装着しているのに対し、ステルヴィオはコンチネンタルのクロスコンタクトなので、オールシーズンタイプですね。

ステルヴィオのタイヤはオールシーズンタイプを装着。X3はスポーツタイプのピレリPゼロを装着するのと対照的

 フェンダーの隙間からフロントサスペンションを覗くと、ステルヴィオはダブルボールジョイントはめ込み式を採用。ウィッシュボーンのアームはアルミです。一方、X3はBMWの定番ストラット。

 ステルヴィオのリアサスを覗くとマルチリンクですがちょっと特異です。マルチリンクというよりもウィッシュボーンに近い配置とジオメトリーの設定。

 ロアアームは、SUV用の大きく重いタイヤを使いながらも、バネ下重量を軽減するために、アルミ製とするなど、軽量化を考慮しています。

 この2台、ボディサイズはほぼ同じですね。ホイールベースも大差はない。当然シルエットは似たものとなるのですが、見た目に雰囲気はずいぶんと異なるのは、やはりアルファロメオとBMWそれぞれのブランドアイデンティティでしょう。

BMW X3 M40d

 BMWはどっしりとした重厚さと安定感を演出しているのに対し、アルファはヌメッとした面を強調したラテン系特有のデザイン。ルノーやプジョーにも感じるデザインテイストです。

 それにしてもステルヴィオのマフラーテールフィニッシャーはずいぶんと存在感をアピールしていますね。いかにもイタリアンデザイン! X3はバンパー下部にビルトインするように平べったい楕円形としています。

 BMWだけではなくベンツのSUVもこの形状、最近は排気の出口フィニッシャーはむしろバンパーデザインの一部として使っていますが、対照的にアルファはわざわざ肉厚のフィニッシャーを付けてバンパーデザインと切り離し、ガツンとパワー感を強調しています。

 テールゲートを開けると、荷室床面はX3のほうが若干低く荷物の積み卸し性はよさそう。奥ゆきや左右幅はほとんど同じです。アルファの荷室フロアボードを上げると樹脂のアンダーボックスがありますが、小容量であまりモノは入らないですね。

 中央のなにやら無駄なスペースに見えるカバーを外すと、なんと、12Vバッテリーが、車両の重量配分補正のためなのか搭載されています。これはコストがかかるレイアウトです。

 荷室部分から後席の背もたれを前倒する操作レバーは両車ともに装備されています。

 ステルヴィオの後席座面と背もたれはともに薄く、乗り心地のストロークが不足しています。デザインも立体感がない。これは後席背もたれを倒した時の荷室フロアのフラット性を優先したため。実際に後席を倒すと、かなりフラットな荷室床面になります。

後席は前倒させることが可能で、荷室スペースを拡大できる。下のX3と比べるとやや斜めになっていることがわかる。そのぶんステルヴィオの後席は座面クッションがX3よりもソフトだ

 一方のX3はというと……、こちらも荷室床面のフラット性を優先した後席ですね。座面が薄くストローク感も不足して硬い印象。座って座面が沈み込まないので、お尻がホールドされません。

 畳の上に座っている感じです。レザーシートで表面が滑りやすいこともあり、走行中はお尻が滑って落ち着きません。体重の軽い子どもや女性は、より身体のホールドやクッション性が不足してしまうでしょう。

右の後席を前倒させた荷室を上のステルヴィオと比較してほしい。X3のほうがよりフラットになっていることがわかる。しかしそのぶん、後席の座面クッションが薄く、座り心地はよくない

 これはクルマ酔いや長距離での疲労感に大きく影響します。後席を倒した時の床面は、X3のほうがステルヴィオよりフラットになります。

 だけど本当にこのクラスのSUVの後席シートは、人の座り心地や快適性よりも、背もたれを倒した時の荷室床面のフラット性をこれほど優先させてよいのでしょうか!? この考え方は理解できません。 

 足元や頭上のスペースは余裕があって広いのですが、肝心のシートがあまりにもお粗末。座面の前後長も少なく、座り心地は大衆車レベルです。

 ステルヴィオの後席のほうが、X3より座面のストロークやお尻の沈み込みによる身体ホールド性は少しマシな作りで、座面前後長も2cm程度長いです。

次ページは : ■ステルヴィオはFRプラットフォームを活かし切れていない

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