2019年3月に復活したRAV4以来、ライズ、ハリアー、ヤリスクロスと、トヨタのSUV攻勢は凄まじい。
どのクルマも順調に販売を伸ばしている中において、どちらも絶好調に売れているコンパクトSUVのライズとヤリスクロスは車格こそ相応に違うわりに価格は意外に変わらない。そのため迷う人も多いようで、当記事ではこの2台を徹底比較してみた。
文/永田恵一、写真/平野学、池之平昌信
【画像ギャラリー】2020年を席巻したトヨタのコンパクトSUV ライズ&ヤリスクロスの魅力を蔵出し画像で隅から隅までチェック!!
ライズは2019年11月デビュー
価格/167万9000~228万2200円
2019年11月にダイハツ主導の開発体制で、ダイハツで販売される本家となるロッキーとともに登場したライズは乗用車ベースの登録車のSUVとしては最小クラスとなる5ナンバーサイズ(全長3995×全幅1695×全高1620mm)のモデルである。
そういったモデルはライズ&ロッキーが登場するまではありそうでなかったのに加え、昨今のSUVブームも追い風となり、「いかにも売れそうなモデル」だ。
実際に2020年12月までの月間販売台数ランキングでは新型コロナウイルス禍により生産が滞った4月の7位以外は1位3回、2位6回、3位2回と絶好調となっている。
ライズはダイハツが現行タントから展開を始めたDNGAコンセプトを盛り込んだ第2弾となるコンパクトカー用プラットホームを使ったコンパクトSUVで、パワートレーンは1L3気筒ターボ(最高出力98馬力&最大トルク14.3kgm)+CVTを搭載。
バリエーションは4グレードで、それぞれにFFと4WDが設定される。
ヤリスクロス
価格/1.5Lガソリン:179万8000~244万1000円、1.5Lハイブリッド:228万4000~281万5000円
2020年8月に登場したヤリスクロスは5ドアハッチバックのヤリスから採用が始まったTNGAコンセプトで開発されたBプラットホーム、3気筒エンジンやトランスミッションを使ったヤリスベースのコンパクトSUVで、コンパクトSUVのド真ん中となるモデルである。
ヤリスベースと言ってもボディサイズは全長4180×全幅1765×全高1590mmと3ナンバー登録となるなど、ヤリスとは別のクルマに近い。
ヤリスクロスは、2020年12月までに3万2590台を販売。8月31日発表だから9~12月の4カ月の販売となり、月販平均8148台と絶好調だ。
パワートレーンは1.5L、3気筒ガソリンNA(最高出力120馬力&最大トルク14.8kgm)と1.5L、3気筒ガソリン+2モーターハイブリッド(フルパワーとなるシステム出力は116馬力)の2つだ。
ライズと迷うのは安価でライズと近い価格となるガソリンモデルと思われるので、当記事では前者を中心にライズと比較していく。
グレードは1.5Lガソリンが廉価版を含めた4つ、1.5Lハイブリッドが3つで、それぞれにFFと4WDが設定される。
使い勝手
●フロントシート
フロントシートは車格の差相応にダッシュボードなどの質感が高く、シートも大きいヤリスクロスの勝ちだ。しかしインテリアの雰囲気はヤリスと高さ関係くらいしか大きな違いのないヤリスクロスに対し、ライズのほうが明るさや楽しさを感じるものとなっている。
●リアシート
ヤリスクロスのリアシートはリアシートがあまり広くないというヤリスの特徴を引き継いでいるようで、コンパクトSUVの水準をやや下回るといったところだ。
対するライズはボディサイズが小さいにも関わらずヤリスクロスと同等と大健闘しており、ボディサイズを加味するとライズに軍配が挙がる。
●ラゲッジスペース
ヤリスクロスのラゲッジスペースは390LとコンパクトSUVとしては平均的だ。
対するライズは369Lとボディサイズを考えれば望外に広いのに加え、ラゲッジスペースに付くボードを下げた状態でもFF/88L、4WD/38LというFFだと巨大と言っても過言ではない、かなり使えるアンダーボックスも備えており、ライズの圧勝だ。
●取り回し
ボディの小ささを生かした取り回しのよさはライズの最大の魅力であり武器もある。この点などを加味し、使い勝手を総合的に見るとライズがヤリスクロスを大きく上回る。
動力性能
ライズの1L、3気筒ターボはターボエンジンながら低回転域から太いトルクが出ており、高回転域での伸びこそないもののCVTとのマッチングも良好で非常に扱いやすい。
いっぽうヤリスクロスの1.5L、3気筒ガソリンはNAエンジンらしく全体的にごく自然なフィーリングで、高回転域までエンジンを回した際には楽しさ、気持ちよさも持つ。
アクセルを深く踏んだ際などの絶対的な動力性能はヤリスクロス優勢だが、ライズはヤリスクロスに対しFF同士で140kg軽いこともあり、想像より差は少ない。
ただどちらもエンジン回転が高まると好みはともかくとして、やはり3気筒独特のエンジン音がするのは当然ながら同じだ。
燃費も実走行にかなり近いカタログに載るWLTCモード燃費通り大きな差はなく、動力性能は1Lという排気量によるライズの自動車税の安さも加味し、引き分けとする。
なおヤリスクロスのハイブリッドはモーターのアシストにより実用域ではよりパワフルなのに加え、エンジンの稼働が減少するため3気筒独特のエンジン音が聞こえる頻度も減る。
燃費も1.5Lガソリンの1.5倍程度が期待できるので、エコカー減税なども含めると実質的に30万円程度の価格差はあるが、極端に走行距離の少ない人以外、長いスパンでは処分する際の査定も含めペイできるものなので、ヤリスクロスを買うならハイブリッドを基本に考えたほうがいいかもしれない。
ハンドリング、乗り心地

ライズはハンドルの切りはじめのフィーリングの悪さ、荒れた路面だとリアのバタつきが気になる乗り心地など、運転していると安っぽさを感じることがある。
いっぽうのヤリスクロスも悪くはないものの、ヤリスを運転した際に感じる「オッ」という雰囲気のよさのようなものはなく、ライズほどではないにせよ荒れた路面だと乗り心地がイマイチというシーンもあり、全体的には普通といったところだ。
そのため、ハンドリングと乗り心地はヤリスクロスの勝ちとする。
なおヤリスクロスの乗り心地がイマイチさは車重が重いほど緩和されるので、ヤリスクロスの中での乗り心地はハイブリッドの4WDがベストではある。
安全装備&運転支援システム
ライズはベーシックなX以外ステレオカメラからの情報を基盤とした自動ブレーキやオートハイビームなどから構成されるスマートアシストが標準装備となり、最上級のZには停止まで対応する先行者追従型のアダプティブクルーズコントロール(以下ACC)とLKC(レーンキープコントロール)が装備される。
またZと上級のGには斜め後方を監視するBSMもオプション設定される。
ヤリスクロスもベーシックなX”Bパッケージ以外にミリ波レーダーと単眼カメラからの情報を基盤に、自動ブレーキ、停止まで対応するACC、LTA(レーントレースアシスト)、オートハイビームなどから構成される最新版のトヨタセーフティーセンスが標準装備され、ZとGにはBSMがオプション設定される。
同じようにも見える安全装備&運転支援システムだが、ライズのものはJNCAPのテストを見ると対停止車両には50㎞/hで止まれず、夜間の歩行者には未対応、ACCの出来も悪いと、日本車のこの種のデバイスの中では見劣りする。
対するヤリスクロスは夜間の歩行者や昼間の自転車、右折の際の対向車にも対応、運転支援システムの完成度も上々と車格を超えて日本車トップクラスと、安全装備&運転支援システムに関しては比較にならないほどの差があり、ヤリスクロスの勝ちだ。
コストパフォーマンス
どちらも充分安いが、特に装備内容の近いライズZとヤリスクロスGの装備を揃えた価格差は3万円ほどしかなく、車格や安全装備&運転支援システムなども含めるとヤリスクロスの圧勝だ。
結論
ハンドリングと乗り心地、安全装備&運転支援システムといったクルマの質、コストパフォーマンスを考えると、勝者はヤリスクロスと言わざるを得ない。
ただ小ささなどライズのよさもあり、価格は据え置きで評価項目後半のクルマの質が向上すれば、ライズがヤリスクロスと迷える存在となる可能性は充分ある。
またヤリスクロスも最近の元気なトヨタ車という点やヤリスから想像する期待値に届いていない部分があるのも事実なので、今後の改良に期待したいところだ。
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