徳大寺有恒氏の美しい試乗記を再録する本コーナー。今回は、ランチア デルタHFインテグラーレを取り上げます。
ランチア・デルタといえば、1987年から1992年までWRC史上初となる6連覇を達成した、ラリーの申し子というべきモデル。
VWゴルフと変わらないコンパクトなファミリーモデルですが、ラリーに勝つためにターボエンジンやフルタイム4WD、ブリスターフェンダーなどを採用し、年々戦闘力を高めていきました。
今回紹介するのは、1988年に投入された、インテグラーレと呼ばれるブリスターフェンダーが装着されたモデル。1988年4月10日号初出の試乗記を振り返りましょう。
※本稿は1988年3月に執筆されたものです
文:徳大寺有恒
ベストカー2016年9月26日号「徳大寺有恒 リバイバル試乗」より
「徳大寺有恒 リバイバル試乗」は本誌『ベストカー』にて毎号連載中です
■「グループA」が生みだした、極めて魅力的なファミリーモデル
現在の国際ラリー選手権は、グループAカーにより行われる。これは年間5000台以上の生産を行わなければならない。
レースカーとして高い戦闘能力を望めば、市販車としての価格、使いやすさに問題が出る。といってその逆に完全な市販車ではラリーカーとしてのポテンシャルが低くなる。
こういう仕事をやらせると、依然としてヨーロッパのメーカーは上手い。彼らはかなり過激なモデルで勝負してくる。ひとつの理由はランチアへのプライドロイヤリティの高さだろうと思う。
そんなワケでランチアは’87年のHF 4WDをいっそう進化させた“インテグラーレ”なる生産車を作った。
旧モデルとの大きな差は、まずボディで、前後フェンダーが大きく張り出している。これにより、トレッドが前1409mmから1426mm、後1404mmから1406mmへと拡大し、サスペンションのアーム類も変更された。
次にエンジンで、ギャレットエアリサーチのターボから、より高い加過給を得ることにより、最高出力は165psから185ps、最大トルクは29.0kgmから31.0kgmへとパワーアップしている。
4WDシステムは基本的に同じで、ファーガソン・ビスカスとトーセンディフにより前56、後44に配分される。
これらのスペックはすべて、WRCで勝つためであり、ランチア・ラリーチームの都合でできたクルマといっていい。
しかし、そのことこそ、アマチュアのスポーツマン、あるいはクルマ好きにとって、きわめて魅力的に作られていることに感心する。
私は同じような成り立ちのある国産車を思った。そいつは、ギアレシオすらまともでなく、メーカーのエゴ丸出しであった。
いわゆるホモロゲートモデルといわれるクルマがこれからもいろいろ出てくると思う。
そして、過去、幾多の名車と呼ばれるものは、このモータースポーツのレギュレーションから生まれている。HFインテグラーレはグループAレギュレーションから生まれた、最も魅力的なロードカーといって間違いなかろう。
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