公道初試乗! トヨタ新型MIRAIに「日本の誇り」と「ものづくりの真髄」を見た!

■ミライに感じる電動車の哲学

 FCスタックは、体積マイナス21%、重量マイナス43%と大幅にスリム化しながら出力を12%アップしているが、最高出力は128kW (174ps)。1.9トン台の車重に対してほどほどといった水準だ。

 モーター最大トルクは300Nmで、スペック上はリーフよりトルクは小さい。パフォーマンスより、効率と航続距離を狙った諸元設定であることがうかがわれる。

 このあたりが、トヨタがFCVを真面目に作っている象徴だとボクは思っている。

 クルマを電動化する目的はCO2削減。

 大量の電池と大出力モーターを搭載してびっくりするような高性能をアピールするのは、マーケティング的にアリかもしれないが電動車の本来の使い方としては邪道。ミライにはそういう哲学を感じるのだ。

 そのかわり新型ミライは航続距離には大いにこだわっていて、水素タンクを3本に増やして充填できる水素量を5.6kgに増量。

 WLTCモード航続距離で850km、最低でも東京~大阪は水素無補給で走りきれる実用性を確保している。

小型、高出力化したFCスタックをフロントフード下に置き、モーターと駆動用バッテリーをリアに配置して後輪を駆動する。T字型に3本置かれた水素タンクは5.6kgの容量を持ち、飛躍的に航続距離を延ばした
小型、高出力化したFCスタックをフロントフード下に置き、モーターと駆動用バッテリーをリアに配置して後輪を駆動する。T字型に3本置かれた水素タンクは5.6kgの容量を持ち、飛躍的に航続距離を延ばした

 首都高から東関道を経由して成田方面に向かう道すがら、ACCを100km/hに設定して電費計をチェックしてみたのだが、暖房にエネルギーを食われているため電費計の数字はだいたい90km/kgあたりを推移する。

 開発責任者の田中義和CEによると、エアコン使用でも夏場はコンスタントに100km/kgを超えるそうで、実用上はこれが下限値という感触。

 であれば、これでも計算上はなんとか大阪まで到達可能というわけだ。

 バッテリーEVで同等の実用航続距離を得るには、安全マージンを考えると80~100kWh程度の電池容量が必要。

 こういうコスト/重量面でFCVの優位性をアピールしてゆく戦略なのだろう。

今回のドライブではずっと暖房をつけていたため平均燃費は88~90km/kgといったところ。5.6kgの水素タンクが満タンの状態で航続距離は約500kmとなる計算で、水素充填直後の航続可能距離は492kmを示していた。これが下限だと思っていいだろう
今回のドライブではずっと暖房をつけていたため平均燃費は88~90km/kgといったところ。5.6kgの水素タンクが満タンの状態で航続距離は約500kmとなる計算で、水素充填直後の航続可能距離は492kmを示していた。これが下限だと思っていいだろう

■走りを楽しめるドライバーズカー

 それにしても、ACC任せで淡々と高速を流していると、いい意味で「ものすごく普通の高級車」という印象だ。

 先進性をアピールするクルマはとにかくデカい液晶パネルをつけるのが最近のトレンドで、テスラはもちろんホンダeなんかもきらびやかなインテリアで攻めてくるが、ミライはインパネやディスプレイもオーソドックス。

 仕上げは上質だが、トンがったライバルたちに比べると控えめで華やかさには欠ける。

最新の電動車ではワイドな液晶パネルが流行っているが、ミライのインパネはオーソドックスですぐに馴染めるもの。質感も高い
最新の電動車ではワイドな液晶パネルが流行っているが、ミライのインパネはオーソドックスですぐに馴染めるもの。質感も高い

 このへんはボクの想像だが、セダン市場が縮小するなかでミライが高級サルーンとして開発されたのは、最後の牙城で残るフリートユース(公用車や社用車など)を狙っているからではなかろうか?

 実際に走らせると、乗り心地とハンドリングのよさが高次元でバランスしていて、FSWショートコースのタイトなコーナーでもステアリングの追従性やライントレース性はびっくりするほど優秀だし、限界域でリアをブレイクさせて向きを変えるという後輪駆動ならではの楽しみ方も可能。

 低重心で50:50前後重量配分という優れた基本特性は、ハンドリングはもちろん乗り心地にも大いに貢献している。

 ショーファーに運転を任せるのがもったいないドライバーズカーであることは、先日のサーキット試乗で確認ずみだ。

 そんな走りのポテンシャルを秘めたミライなのだが、今日みたいに雨の高速道路を静々と走らせるようなシチュエーションでは、後席に座るスタッフから「ミライをハイヤーとして使ったら、静かで乗り心地抜群だから最高かも?」という感想も出る。

後席は広々と表現できるほどではないが、充分なスペースがある
後席は広々と表現できるほどではないが、充分なスペースがある
こちらは前席
こちらは前席

 国策として「カーボンニュートラル」を掲げた以上、自治体や企業などのフリートもゼロエミッションが強く求められる。

 そういう意味では、社用車、公用車そしてハイヤーなどに対するミライの適合性は抜群なのだ。

 そういう使い方を想定すると、スッとスムーズに発進し、回生をうまく使って減速するブレーキもストレスなく快適でパッセンジャーを疲れさせない。

 静粛性も電動車のなかでもトップクラスで、首都高速クルージング中でも停止時とさして変わらぬ声の大きさで前後席間の会話が可能。これには多くの人が驚くと思う。

 そして、最後に切り札となるのが、ホースをコネクトすれば5分ほどで満タンになる水素充填時間の短さ。

水素充填わずか5分。満タンで実用約500km
水素充填わずか5分。満タンで実用約500km

 もちろん、水素ステーションの少なさに課題はあるが、同じ電動車でもEVとFCVの大きな違いがここにあり、ハイヤー・タクシーなど稼働率を上げたいフリートカーの場合には、それが決定的なメリットになるケースは少なくない。

 EVとFCVは適材適所で使い分けるのがベスト。日本の自動車業界全体でそういうアピールができたら素晴らしいと思うんだけどなぁ。

●MIRAI価格
G:710万円/G“Aパッケージ”:735万円/G“エグゼクティブパッケージ”:755万円/Z:790万円/Z“エグゼクティブパッケージ”:805万円。国のCEV補助金117万3000円のほか自治体独自の助成金もある。東京の場合、57万6000円だ(2020年12/25時点)

●トヨタ MIRAI Z “エグゼクティブパッケージ” 主要諸元
・全長×全幅×全高:4975×1885×1470mm
・ホイールベース:2920mm
・車両重量:1950kg
・最低地上高・155mm
・最小回転半径:5.8m
・パワーユニット:燃料電池
・モーター最高出力/最大トルク:182ps/30.6kgm
・水素タンク容量:5.6kg
・WLTCモード航続可能距離:約850km
・最高速度:175km/h(推定)
・サスペンション(F/R):マルチリンク/マルチリンク
・駆動方式:後輪駆動
・価格:805万円

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