今年も年に一度の自動車税納付の季節がやってきた。自動車ユーザーの皆さんの手元にも自治体から「納税通知書」が届いているだろう。
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、今年は特定の条件(事業等に係る収入が前年同期比で概ね20%以上減少する等)を満たす場合、猶予制度も設けられているが、一般的に自動車税の納期限は5月末。今年は曜日の関係で6月1日となっている。
この自動車税、日本ではエンジンの排気量に応じて課税する仕組みを採っているが、少なくとも3万円弱、排気量によっては10万円超の課税額とあって、決して軽い税負担ではない。
考えてみれば、自動車税の大枠は様々な技術革新にも関わらず、長年変わっていない。日本の自動車税は果たしてこのままでいいのか。諸外国の制度も例にあげながら、清水草一氏が解説する。
文:清水草一
写真:ベストカーWeb編集部、TOYOTA、NISSAN
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日本の“自動車税”は高いのか


5月は自動車税納付の季節。税額は軽自動車の1万800円から排気量6000ccオーバーの11万1000円まで幅広いが、登録車の場合、最低でも年額2万5000円(1000cc以下)支払う必要があり、痛税感は高い。
日本の自動車税制は、この自動車税(地方税)と重量税(国税)という、クルマを持っているだけでかかる「保有税」が高いのが特徴で、この部分だけを見ると、他の先進国の数十倍だったりもする。
ただ、欧州諸国は燃料税と消費税が日本の約2倍。トータルの税負担は日本より高い。
日本では、JAFや日本自動車工業会のキャンペーンにより、「日本の自動車税は世界的に突出して高い」というイメージが植え付けられているが、トータルの税負担は、欧州>日本>アメリカという順になる。
もちろん、保有税が高く燃料税が安い日本の自動車税制が正しいというわけではないが、完全な正解はないのも事実。
たとえば今年4月、日本総研にて、「自動車関係課税のあるべき方向性を考える」というレポートが発表された。
現行税制は税体系が複雑で課税の趣旨が明快でないため、それを抜本的に見直しつつ、税収が減らないように再構築し、「走行税」「重量税」「環境税」にまとめるという内容だった。
自動車税の「排気量課税」はもう古い?

それに基づいた税負担がどうなるかというと、乗用車は現在の4割減になるが、トラックやバスは現在の2倍以上。
理屈としては正しいが、これをすぐに実施したら、日本のトラック物流は壊滅的な打撃を受ける。もはやJRは貨物輸送を増やす余力に乏しく、経済活動全体が崩壊しかねない。つまり机上の空論である。
また、欧州のように保有税を下げて燃料税を上げると、持っているだけであまり乗らない傾向のある都市部の自家用車の負担は減り、クルマを毎日のゲタとして使っている地方部の負担が増えることになる。つまり、地方はさらに疲弊する。
こういった影響を考えると、自動車税の総額自体は、残念ながらあまり変えられないのではないか。見直すとしたら、現在は排気量ごとに決められている税額の区分のほうだ。
かつては、クルマの排気量は車格を表す最大の指標だったが、現在はハイブリッドやダウンサイジングターボの台頭もあり、時代遅れになっている。
では何を指標とすべきか。
候補に挙げられるのは、CO2排出量、馬力、車両重量の3つだ。
欧州各国の自動車税はどうなっている?

欧州各国を見ると、ドイツはCO2排出量と排気量、フランスはCO2排出量と燃料種類と馬力、イギリスはCO2排出量と燃料種類となっていて、CO2排出量を柱としつつ、他の要素を加味する形になっている。
日本の場合は、現状すでに自動車税とは別に重量税がある。これは道路の損傷に応じた負担を求めた道路特定財源だったが、現在は一般財源化したため、課税根拠がなくなったとして廃止を求める声も上がっている。スジとしてはその通りだが、代替財源がないため存続している。
ただ、その税額は、乗用車で500kg毎に4100円/年。これはあまりにも刻みが粗すぎる! 一方、軽自動車は一律3300円/年と、十把一からげに優遇されている。
まずは重量税の刻みを、100kgあたり800円等、もっと細かくすべきだ。軽自動車も、アルト(610kg~)とウェイク(~1060kg)では大差がある。重い軽自動車は軽本来の主旨から外れているのだから、それなりの負担増を求めて公平化すべきではないか。
日本の自動車税はどう変えるべき?

いよいよ本題の自動車税だが、こちらは、CO2排出量を基準にするのが、最も理にかなっていると考える。
現在、登録車の自動車税は、2万5000円~11万1000円と4倍余りの幅になっているが、現行国産車のJC08モード燃費を見ると、プリウスの40.8km/Lからレクサス LXの6.5km/Lまで、6倍強の差がある。
CO2排出量にざっと計算し直すと、56g/kmから354g/kmになる(JC08モードを自動車税の基準に使おうというわけではなく、単なる目安)。
税額とCO2排出量を比例させ、プリウスが2万円/年、レクサスLXが12万円/年程度に設定すれば、現行の負担水準をより公平化することになり、広く納得が得られるのではないだろうか。
もうひとつ、クルマ好きにとっての不満のタネは、古いクルマの自動車税が割増されてしまう点だ。現在、ガソリン車は13年超、ディーゼル車は11年超で割増が適用されている。
個人的には、この制度を一概に否定はしない。環境にやさしくて安全な、より新しいクルマへの買い替えを推奨する税制はあってもいい。

ただ、たとえば25年を経過したら元の税額に戻すとか、そのうえで年間走行距離が2000km以内なら、ヒストリックカーとして税を軽減するといった制度を、欧州にならって設けていただきたいものである。
私も現在、1989年製のフェラーリ328GTSを所有している。排気量は3.2Lなので、本来の税額は5万8000円だが、これが約15%割り増しされ、年に6万6700円取られている。
年間走行距離は2000km程度。燃費は平均して7km/L程度と良くはないが、走行距離が短いので、環境への負荷は決して重くはない。
個人的には、自分のフェラーリに対して、年間7万円弱という自動車税を高いとは思っていない。古くなってもフェラーリは贅沢なクルマだし、残存価値も高く、税金を安くしろと言えた義理ではない。
しかし、いつか日本にも、古いクルマを文化財として保護する精神が芽生えてくれたら、うれしいとは思っている。