ナカニシ自動車産業リサーチ・中西孝樹氏による本誌『ベストカー』の月イチ連載「自動車業界一流分析」。クルマにまつわる経済事象をわかりやすく解説すると好評だ。今回は予測不能なトランプ関税に振り回されている日本の自動車業界について。先を見通すことは困難な状況だが、トップアナリストはこの局面をどう捉えているのか? 本誌連載特別版をお届けする。
初出:『ベストカー』2025年5月26日号 ※内容はすべて2025年4月17日現在のものです
文:中西孝樹(ナカニシ自動車産業リサーチ)/写真:Adobestock ほか(メイン画像:Bill Chizek@Adobestock)
■予測不能のタリフマン(関税男)に自動車業界大混乱
2025年4月2日、米国トランプ政権は「相互関税」の詳細を発表しました。
相互関税とは、米国が貿易赤字解消を目的に関税負担が相互に対等になるように関税を課すものです。その内容は我々が想定した10~20%の関税率をはるかに超えた高率となり、日本は24%もの高関税が対米輸出品に賦課されることになります。
国内産業への影響に加え、米国におけるインフレと景気後退懸念が強く台頭しています。この相互関税の大騒ぎの中ですでに発表され、実施を待っていた「自動車関税」は4月3日の12時に正式に発効したのです。
トランプの関税政策は大きく3つあります。
第1に、IEEPA(国際緊急経済権限法)*に基づく違法薬物のフェンタニルや不法移民の米国移入を防衛するための「カナダ・メキシコ関税」(25%)。第2に、通商拡大法232条に基づいた「自動車関税」(25%)。第3がIEEPAを根拠法とする「相互関税」です。
「相互関税」は自動車・自動車部品を適応除外しています。「カナダ・メキシコ関税」はUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の原産地規則に適合した自動車・部品の関税が免除されます。従って、国内自動車産業に直接関わっているのは「自動車関税」となります。
日本政府は「相互関税」の見直しを求めて交渉を開始しました。この実現可能性は一定程度あると考えます。
しかし、世界に向けて均一に課税する「自動車関税」の修正を個別交渉で実現することは容易ではないでしょう。当面大きな修正は期待できず、国内自動車産業には厳しい未来が訪れる公算大と筆者は見ています。
過去の連載の中で、筆者は関税よりIT規制緩和が未知数としてリスクだと指摘してきました。この考えは「日本車への関税率は10%程度に留まるだろう」とある意味タカをくくっていたからです。これは国内自動車メーカーの経営陣も同じではなかったでしょうか。25%となると完全に話は違います。
*IEEPA(国際緊急経済権限法)……米国に重大な脅威がある場合、大統領が緊急事態を宣言すれば、事前調査なく、即座に輸出入を制限することが可能。主にイランや北朝鮮などへの経済制裁に使われていた。一方、通商拡大法232条は米国商務省による事前調査が必要で、発動まで数カ月の時間が必要となる。トランプ氏はIEEPAで関税を課した初めての米国大統領となった。
コメント
コメントの使い方数字を無視した楽観視も多い中、現実をみた記事だと思います。ありがたいです
北米でのサプライ確立が急務ですが、現状極端に高い人件費のみならず、低い品質、一層多くなるストも大問題で、どれも実際の対策が非常に難しいです。それこそ米国自動車業界や製造業全体を変えないと解決はしない問題。
当然対策には動きつつも、トランプが投資家ほぼ全体からNOを突きつけられて大幅な軌道修正迫られることを祈るしかない現状…。