最近はコンパクトミニバンのシエンタが目立って売れている。現行型の2代目シエンタが発売されたのは2015年7月で、直近では2018年9月にマイナーチェンジを実施して2列シート車も加えた。
これらの改良と、やや設計が古くなったヴォクシー/ノア/エスクァイアなどから乗り替える(ダウンサイジングする)需要も重なり、対前年比がプラスで推移している。
特に2019年8月と9月は、国内で売られた小型/普通車の販売1位になった。対前年比も8月は158%、9月は186%に達する。
発売から4年も経過した現行シエンタが、前年の1.6倍から1.9倍も売れるのは珍しい。トヨタの4系列すべてが扱い、ライバル車は実質的にフリードのみだ。有利な条件が重なった結果でもあるが、商品力は相当に高い。
そこで現行シエンタを先代型(初代モデル)と比べてみたい。
文:渡辺陽一郎/写真:TOYOTA、HONDA
【画像ギャラリー】シエンタの最大のライバルはホンダフリードシリーズ!!
初代シエンタはモビリオの対抗馬として登場
シエンタは今の売れ筋ミニバンでは珍しく、全高が1700mmを下まわる。それなのに3列目に座っても、あまり窮屈に感じない。その秘訣は薄型燃料タンクを採用して、床の位置を下げたからだ。
そしてこの薄型燃料タンクは、先代型で開発されたものだ。従って現行シエンタの優れた空間効率も、先代型ですでに確立されていたことになる。そこで改めて新旧比較を行い、共通点と相違点を探ってみたい。
シエンタの誕生には、ホンダが2001年に発売したコンパクトミニバンのモビリオがかかわっている。全長が4m少々の小さなボディだが、室内はとても広い。
プラットフォームはフィットと共通で、燃料タンクを前席の下に搭載したから、3列目に長身の大人が座っても窮屈な姿勢になりにくい。このセンタータンクレイアウトを有効活用して、モビリオはコンパクトミニバンなのに多人数が無理なく行えた。
このモビリオの登場に刺激されたのがトヨタだ。当時のトヨタはほかのメーカーを徹底的にマークしており、売れそうなライバル車が登場すると、必ず対抗車種を送り込んだ。
ホンダのストリームにはウィッシュ、好調に売れていた日産エルグランドにはアルファードという具合だ。モビリオに対してはシエンタが対抗車種になり、2003年9月に初代モデルが発売された。
先代シエンタは一生産中止後に異例の復活
先代シエンタの全長は4100mmと短く、モビリオとほぼ同じだ。リアゲートを開いた時の、路面から荷室床面までの高さも490mmに収まるから、現行シエンタの505mmと比べてさらに低かった。
渾身の低床設計とされる現行N-BOXも470mmだから、シエンタは当時として最先端の低床設計であった。このように初代シエンタは、燃料タンクを薄型にすることで、前席の下にこれを設置するモビリオと同様の低床効果を得ていた。
さらにシートの収納方法も工夫して、3列目を片手で二つ折に畳み、2列目の下側へ簡単に格納できるようにした。これもモビリオへの対抗だ。
モビリオは2列目を持ち上げてから、その下側に3列目を収める方式だったから、シートアレンジに手間を要した。シエンタはそこを突いて「片手でポン」をセールスポイントにした。
その代わりシエンタの3列目はセパレートタイプでシート本体も薄手だ。対するモビリオの3列目は、シートアレンジが少々面倒な代わりに、座り心地は快適であった。一長一短のライバル同士だった。
この後、販売合戦ではシエンタが勝利して、モビリオは1代限りで生産を終えた。後継のホンダフリードは、燃料タンクを車両の後部に搭載する一般的な方式になり、モビリオの優れた空間効率は見当たらない。
2008年の末にはシエンタの後継車種としてコンパクトミニバンのトヨタパッソセッテが発売されたが、空間効率が低く、3列目は完全な補助席で販売は低迷した。
そのためにシエンタは、2010年8月に一度生産を終えながら、2011年5月に異例の復活を遂げている。パッソセッテは2012年に1代限りで生産を終えた。
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