2017年6月23日、三菱自動車の株主総会で、益子修CEOが「いつか新しいランサーエボリューションやパジェロの開発に挑戦したい」と発言し、注目を集めている。
さっそく新聞各紙を含む多くのメディアで「ランエボ、パジェロ復活!!」という見出しが躍ったが、益子CEOが語ったのはあくまでも「挑戦したい」という内容であり、「V字回復して余力が出てきた暁には」(益子CEO)という大前提があっての話だ。
しかし、この発言で社内は大いに盛り上がったという。ある三菱社員によると「益子さんが言うようにランエボ、パジェロはうちの最大の財産。ああいう発言を聞くと、当然士気は上がりますよ」とのこと。
以下、これまで本誌が掴んでいるランエボ&パジェロの開発動向と、今後の三菱の開発体制に関して、ベストカースクープ班が掴んでいる情報を整理してお伝えしたい。
文:ベストカー編集部スクープ班(※本記事に登場するスクープCGの大きな画像は、現在発売中のベストカーに掲載しております)
ベストカー2017年8月10日号
■ゴーン氏が会長となることで……
益子修CEOは、先述の株主総会で「(開発への挑戦は)ルノー・日産アライアンスの力を借りて」と言っている。
ここは重要なポイント。確かに三菱単独では無理でも、日産と手を組むことで可能性は広がる。そこに単なるリップサービスではないことを感じ取ったからこそ、メディアも大きく報じたのだ。
日産、三菱両社の会長となったカルロス・ゴーン氏は、1999年にルノーから日産にきて間もなく、フェアレディZ、GT-Rという日産の二枚看板を復活させたことで知られる。
「過去の財産を生かす」のはゴーン氏の経営手法のひとつで、その手法を三菱でも用いるのは当然といえば当然ともいえるのだ。
では実際のところ、ランエボ、パジェロ復活のシナリオはどう描かれるのか。

■パジェロはV6スーパーチャージャーのPHEV
まずパジェロだが、このクルマこそ日産との提携効果が期待されるモデルといえるだろう。三菱が開発し、三菱ブランドと日産(もしくはインフィニティ)ブランドの両方で販売するという方法だ。
もちろん、そこにルノーという第3のブランドが組み込まれる可能性もある。
両社(あるいは3社)が得意とする国、地域をうまく棲み分けられれば、グローバルでの販売はある一定のメドが立つ。
その量産効果でコストを抑えることができるなら、ニューモデルの開発は可能という考え方だ。
三菱はこれまでも次期パジェロを匂わせるコンセプトカーをモーターショーで披露してきた。2016年のパリモーターショーと2017年の上海モーターショーに出展したGT-PHEVコンセプトがその代表格。

GT-PHEVコンセプトはフロントに1基、リアに2基のトリプルモーター方式のフルタイム4WDプラグインハイブリッド車で、車両運動統合制御システムS-AWCを搭載するハイテクSUVだ。
搭載エンジンに関する情報はないが、2013年の東京モーターショーでは、その前身ともいえるコンセプトGC-PHEVを披露しており、このクルマはV6、3Lスーパーチャージャーエンジンのプラグインハイブリッドだった。
そこからみても欧州車型のパフォーマンス志向のプラグインハイブリッドであると予測できる。
これらはいかにも「未来のクルマ」といった感じの内容に見えるが、クルマの電動化を推し進める三菱にとってはすべて現実味のある技術。日産もその技術力を買って提携に踏み込んだとされており、両社にとっては「既定路線」ともいえる方向性なのだ。
また、三菱にはクリーンディーゼルという「もうひとつの切り札」があり、両方を採用して国や地域によってPHEVとクリーンディーゼルを使い分けるというやり方も充分に考えられる。
三菱におけるゴーン体制はまだ始まったばかりだが、ゴーン会長にとってパジェロの存在感は相当大きいはず。
資金、開発スタッフのメドが立ち、日産、三菱、そしてルノーの提携効果が見込めると判断できればすぐにでもGOサインは出ることだろう。

■続いてランエボ! まずはコンセプトカーの出現に期待!!
続いてランサーエボリューション復活のシナリオはどうか? こちらも業績回復が前提となるが、パジェロと同じくゴーン会長にとっても復活を目指したい1台であることは間違いない。
2年ほど前、益子CEOは「ランエボの復活はない」と非公式の場で断言したことがある。今はクルマの電動化を進めるのに集中しており、スポーツモデルの開発にまで手が回らないということだった。
それが今回はガラリと変わった前向きな発言。時が経てば状況が変わり、それに合わせて考え方も変わるのは当然あることだが、ゴーン会長の強い意思が働いた結果の「宗旨替え」であることは想像に難くない。

もし復活するとしたら、ランエボはどんなクルマになるのだろうか。ファンが期待するのは、もちろんEVではないだろう。
ランエボのようなクルマは、ただ車名が復活すればいいわけではなく、過去、長く支持してくれてきた人たちを納得させ、満足させる必要がある。それこそが真の復活だ。
そして、ゴーン会長はそのあたりのユーザーマインドがよくわかっているはずなのだ。
やはりメインはガソリンエンジン、それも過給エンジンだろう。ある開発エンジニアは、ランエボの復活について「今ある資材を使って作るのが自然だ」と言うが、コストを考えると当然のこと。となると、次期ランエボのベースとなるのはアウトランダーのプラットフォームが最有力候補補となる。
これに今年12月に発表となるエクリプス クロスに搭載される1.5Lターボか2.2Lクリーンディーゼルエンジンを積むなら、すぐにでも新しいランエボはできる。
それでもファンは喜ぶかもしれないが、それだけではやはり物足りない。ランエボは常に新しい技術を身にまとう、三菱のスポーツフラッグシップでなければならない。

現在開発が進んでいる車両運動統合制御システムS-AWCは前述の次期パジェロにも使われる技術だが、ランエボにももちろん採用されるだろう。ただし、その制御内容は当然変わってくる。
パジェロが安定性や悪路走破性を重視したものなら、ランエボは運動性能重視。同じシステムでもキャラクターの異なる制御にできるのが最新デバイスの特徴なのだ。
考えられる方向性は1.5~2Lクラスの過給エンジンにモーターを備えるハイブリッド+最新S-AWCの新世代スポーツ。
パジェロ、ランエボともに2018~2019年にデビューさせるのは厳しいが、これまでパジェロ/ランエボの次期モデルを追いかけてきたベストカーとしては、まずはモーターショーでコンセプトカーを披露し、そして、市販車に発展する可能性が高いということを伝えておきたい。