事前予約の前倒しは当たり前になっている
ほかのメーカーも同じように予約受注の前倒しを行う。マツダも現行CX-5の予約受注を開始した時、大半のセールスマンは試乗していなかった。
セールスマンは、「先代CX-5のお客様から、新型の走りや乗り心地がどのように変わったかを尋ねられても返答できない。申し訳なかった」と言う。
マツダ3では、1.5Lガソリンエンジンとクリーンディーゼルターボは2019年5月に発売したが、2Lガソリンは7月で、スカイアクティブXの各種データはこの時点では未定だった。
その後に設計を変更したこともあり、スカイアクティブXのデータがわかったのは2020年1月以降だ。それでも受注は燃費数値などがわからない状態で2019年から行っていた。
事前予約はメーカーの事情
なぜ実車も見られない発売の数カ月前から予約受注を開始するのか。メーカーの商品企画担当者に尋ねると、以下のような返答だった。
「予約受注を行うと、生産を開始する前に、需要を予測できる。売れ筋のパワートレーン、グレード、オプションなども予めわかるから、生産計画を立てやすい」
納得できる説明だが、以前は予約受注など行っていなかった。
発表前に東京モーターショーなどで披露された場合を除くと、発売まで秘密を守り、新型車の情報は露出させなかった。
その代わり発売と同時にCMを放送して、週末に販売店へ出かけると、展示車も用意されている。世の中がすべて新型車に染まった。
三菱のOBは、「1976年に初代ギャランΣ(シグマ)を発売した時は、販売店の入口から歩道に長い行列ができた。警察から注意を受けたほどだ」と振り返る。
新型車が登場すると、どこの販売店も盛況で、売れ行きも一気に伸びた。そして従来型は、新型車の発売まで、しっかりと売り切った。
だからこそ、従来型の買い控えを抑えるために、新型車は秘密を守る必要があった。
カタログの色校正紙が漏洩して自動車雑誌にわたり、スクープ記事に発展した時は、メーカーが印刷会社を訴えて窃盗事件に発展した。編集者が警察から事情聴取を受けたりした。
納期が長引くことのデメリットは多岐にわたる
それが今では数か月前に外観を披露して、次は販売店に行けば価格などがわかる予約受注を行い、価格や各種データを公表する発表を経て、納車も行われる発売に至る。
ユーザーから見れば、従来型の販売がいつ終わり、新型車がいつ登場したのかわからない。これでは新車市場も盛り上がらない。
そして「予約受注を行えば、売れ筋のパワートレーン、グレード、オプションなどが予めわかる」のは、メーカーの需要予測能力が衰えたことを示す。
予約受注によってメーカーが簡単に生産計画を立てやすくなる代わりに、ユーザーは注文から納車まで長い期間待たされる。販売店も顧客のケアに追われるのだ。
今は新車需要の80~90%が乗り替えに基づき、ユーザーは車検期間の満了に合わせて納車を希望する。
そうなると納期が長ければ、新車の納車前に、下取りに出す愛車が車検を迎えてしまう。車検を取り直したり、クルマを持たない期間を過ごさねばならない。
納期が長引くと、下取り車の価値も下がる。予約受注の時に査定を受けても、納車時に改めて価値を判断する必要が生じる。数々の面倒が発生するのだ。
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