実車を見ずに新車を買うケースが増えている
ユーザーは実車を見ないで予約したり、長く待たされることをどのように考えているのか。この点もセールスマンに尋ねた。ユーザーは大きく2タイプに分類できるという。
「慎重に選ぶお客様は、たとえ納期が長引いても、発売後に試乗してから購入の判断を行う。値引きなども含めて、ライバル車との比較も行うから、必ずしも買っていただけるとは限らない」
そしてもう1タイプが実車を見ずに新車購入するユーザーで、最近ではこちらが大勢を占めているという。
「即座に予約して、なるべく早い納車を望むお客様の大半は、以前から付き合いがあり、フルモデルチェンジを受けた同じ車種の新型に乗り替えるパターンだ。従来型を使っているから、新型も想像できる。つまり新型を信頼して予約する。従って商品力が下がると、信頼を裏切ってしまう。今のコンパクトカーなどは、コストの低減や燃費の向上を目的に、新型の乗り心地が従来型より硬くなったりメッキパーツを省くことがある。これは困る」。
極端な予約受注の前倒しはユーザーも販売現場も混乱
最近はクルマの売れ行きが伸び悩み、2019年の国内販売は520万台だった。1990年の778万台に比べると、約30年間で30%以上減った。その理由はさまざまだが、新車を発売する時の勢いが薄れたこともあるだろう。
メーカーの商品企画担当者は、「最近はインターネットに発売前の新車情報が飛び交い、憶測による情報が事実のように扱われることも増えた。そこで早々に情報を公開して、予約受注を始める事情もある」と言う。
確かに今はSNSなども含めて、情報を伝える媒体の種類が圧倒的に多い。新車の発売方法も変化を迫られるが、極端な予約受注の前倒しは、ユーザーと販売現場を混乱させる。
3代目プリウスの前倒し成功で他メーカーも追従
ちなみに予約受注の前倒しで最初に話題を呼んだのは、3代目(先代)プリウスだった。発売は2009年5月18日だが、予約受注は4月1日に開始した。
しかも3代目プリウスは、ハイブリッドシステムを進化させながら、先代インサイトに対抗して価格を割安に抑え、販売店はトヨタカローラ店とネッツトヨタ店を加えて全店扱いに移行した。
これらの相乗効果で3代目プリウスは受注を伸ばし、トヨタは「発売から1か月後の受注台数が約18万台/月販目標は1万台」と大々的に宣伝した。その結果、プリウスは最長で10か月の納車待ちに陥っている。
納車を伴う「登録台数が約18万台」なら立派だが、ユーザーを1年近くも待たせたのだから、受注台数だけが増えても褒められない。
それなのに他メーカーの反応は、「人気の高さを誇れるからウチもやろう」というもので、今の状況に発展した。
トヨタは自動車産業のリーダー的な存在だから、いいことも、悪いことも、真似されてしまう。
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