大きく変わる新車販売 新車発表と発売のズレによる弊害と事情

実車を見ずに新車を買うケースが増えている

 ユーザーは実車を見ないで予約したり、長く待たされることをどのように考えているのか。この点もセールスマンに尋ねた。ユーザーは大きく2タイプに分類できるという。

「慎重に選ぶお客様は、たとえ納期が長引いても、発売後に試乗してから購入の判断を行う。値引きなども含めて、ライバル車との比較も行うから、必ずしも買っていただけるとは限らない」

ハリアーは2020年4月にプロトタイプを公開し、6月に発売開始。実車を見ずに何万人もの人が購入したというのはハリアーに対する信頼感の高さの証
ハリアーは2020年4月にプロトタイプを公開し、6月に発売開始。実車を見ずに何万人もの人が購入したというのはハリアーに対する信頼感の高さの証

 そしてもう1タイプが実車を見ずに新車購入するユーザーで、最近ではこちらが大勢を占めているという。

「即座に予約して、なるべく早い納車を望むお客様の大半は、以前から付き合いがあり、フルモデルチェンジを受けた同じ車種の新型に乗り替えるパターンだ。従来型を使っているから、新型も想像できる。つまり新型を信頼して予約する。従って商品力が下がると、信頼を裏切ってしまう。今のコンパクトカーなどは、コストの低減や燃費の向上を目的に、新型の乗り心地が従来型より硬くなったりメッキパーツを省くことがある。これは困る」。

RAV4 PHVは異例のクルマで、デビュー1カ月足らずでオーダーストップ。デビュー前から買い得感が高いと話題になっていた
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極端な予約受注の前倒しはユーザーも販売現場も混乱

 最近はクルマの売れ行きが伸び悩み、2019年の国内販売は520万台だった。1990年の778万台に比べると、約30年間で30%以上減った。その理由はさまざまだが、新車を発売する時の勢いが薄れたこともあるだろう。

 メーカーの商品企画担当者は、「最近はインターネットに発売前の新車情報が飛び交い、憶測による情報が事実のように扱われることも増えた。そこで早々に情報を公開して、予約受注を始める事情もある」と言う。

 確かに今はSNSなども含めて、情報を伝える媒体の種類が圧倒的に多い。新車の発売方法も変化を迫られるが、極端な予約受注の前倒しは、ユーザーと販売現場を混乱させる。

日産キックスも初期受注は好調。早期納車を目指すなら実車を見ずに購入するしかない、という状況は慎重派にとっては非常に迷惑
日産キックスも初期受注は好調。早期納車を目指すなら実車を見ずに購入するしかない、という状況は慎重派にとっては非常に迷惑

3代目プリウスの前倒し成功で他メーカーも追従

 ちなみに予約受注の前倒しで最初に話題を呼んだのは、3代目(先代)プリウスだった。発売は2009年5月18日だが、予約受注は4月1日に開始した。

 しかも3代目プリウスは、ハイブリッドシステムを進化させながら、先代インサイトに対抗して価格を割安に抑え、販売店はトヨタカローラ店とネッツトヨタ店を加えて全店扱いに移行した。

3代目プリウスは1カ月で18万台を受注。事前予約を早めたのが奏功したことで、他のメーカーの戦略にも大きな影響を与えた
3代目プリウスは1カ月で18万台を受注。事前予約を早めたのが奏功したことで、他のメーカーの戦略にも大きな影響を与えた

 これらの相乗効果で3代目プリウスは受注を伸ばし、トヨタは「発売から1か月後の受注台数が約18万台/月販目標は1万台」と大々的に宣伝した。その結果、プリウスは最長で10か月の納車待ちに陥っている。

 納車を伴う「登録台数が約18万台」なら立派だが、ユーザーを1年近くも待たせたのだから、受注台数だけが増えても褒められない。

 それなのに他メーカーの反応は、「人気の高さを誇れるからウチもやろう」というもので、今の状況に発展した。

 トヨタは自動車産業のリーダー的な存在だから、いいことも、悪いことも、真似されてしまう。

デザインは写真を見ればわかるが、質感や触感などは実車でないと判断できない。しかし事前予約によって実車を見て判断してからでは遅いのはつらいところ

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